今秋、時任町に新築移転する高橋病院
目指すのは豊かな人生に貢献する医療
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今秋10月の開院を目指し、函館市時任町1の街区で新病院の準備が進む社会医療法人 高橋病院 (理事長・病院長 高橋 肇氏、函館市元町32-18)。今年は同病院発足の原点である高橋米治医院が函館市西川町(現在の豊川町)に開院した1894年(明治27年)に起算して130周年の記念すべき年にも当たる。「地域住民に愛される信頼される病院」を理念に掲げる高橋病院が新病院建設に至ったいきさつと目指す病院像を高橋肇理事長に聞いた。 (取材日:2024年2月14日・2024年9月14日) |
「これまで医学が貢献してきたのは、病気を治し長く生きていただくことでした。『平均寿命』を追求していったところ、作られた寝たきりの方が増えてしまった。医療者は患者さんの身体機能を治療によって改善し幸せになってもらおうとしてきた一方で、治らない病気や障がいを抱えた人が幸せになるにはどうするべきかというテーマについてはあまり顧みられてはいませんでした。
今後は健康寿命、活動寿命をどう伸ばすかが問われています。人間の幸せは身体の健康が全てではない。病気や障がいを抱えていても幸せな人はたくさんいますし、逆に身体は健康でも社会から孤立している人もいます。
活動寿命をどうやって延ばしていくかが大切な視点で、その人が希望を持って生活できる、その人らしい充実した豊かな人生に貢献することを新しい病院でも目指します」
人生を支えてくれる信頼される良医
高橋理事長が北海道大学医学部卒業後、同大学付属病院循環器内科、札幌厚生病院循環器内科医長など歴任して高橋病院に戻ってきた当時、函館は全国平均の2倍という急性期病院数を数え、さらに高橋病院が立地する西部地区の高齢化率は全国平均の数十年先をいくという地域特性があった。
そうした地域の特性に鑑み高橋理事長は、高橋病院に道南地区初の回復期リハビリテーション病棟を立ちあげた。
さらに檜山地方も含めて先々代から行っていた往診や訪問診療も継続。関連施設である介護老人保健施設やグループホームなどの介護保険事業所に加えて訪問リハビリや訪問診療なども展開し、「つなげるリハ、つながるリハ」を合言葉に法人事業所間で切れ目のないリハビリテーション提供を目指してきた。
「命を救い病気を治すのが名医ならば、リハビリ病院である私たちは患者さんの生活、人生を支えて信頼される良医を目指す」。高橋理事長のこの言葉は、そのまま新病院にも引き継がれていく。
昭和9年に現在地移転、老朽化に対応した移転新築決定
1934年(昭和9年)の大火により、西川町の医院が全焼したため会所町(現元町)の渡辺医院を譲り受け再開。その後、1987年 (昭和62年)まで三期にわたる工事により、現在地に全館鉄筋建造物の病院棟が完成した。
しかし、建物の老朽化も進み病院の新築計画が課題となってきた。現病院は函館市の景観条例から高さ制限の規制がある地区で、設備等を一新した本格的な新築を進めるには移転が必須条件となった。さらに新病院は移転新築が避けられないことから、現病院をクリニックとして残すことも決定した。
クリニック運営のノウハウを習熟するため2019年(平成31年)4月1日(同年5月1日からは令和元年)、湯川クリニックビル1Fに社会医療法人高橋病院 湯の川クリニックを開院した。
翌2020年(令和2年)12月、売買契約が締結しJR北海道から市内時任町の「時任社宅」跡地を買収。昨年6月に着工。新病院の規模は、鉄筋コンクリート造4階建て、敷地面積5469.05㎡、延床面積9352.21㎡。建物規模は現病院の1.3倍となる。外観は赤茶とコンクリートの打ちっ放し。開院に向けて看護師、リハビリ職員などスタッフからの意見を聞きながら計画を進めている。
今後のスケジュールは7月末に工事完成。9月中旬頃の内覧会を経て、10月1日に開院予定。新病院のフロア構成は別表のようになっている。
患者本人の希望に沿った医療とケアの具体化
高橋理事長は新病院について、「新病院は119床プラス介護医療院60床、合計179床となります。患者さんだけでなく、ご家族の方に向けても、環境の充実を図りたいと思っています」と話す。
そこに垣間見えるのは、冒頭の理事長の言葉にもあった「少しでも豊かな人生に貢献することを目指す病院」の狙いの一端だ。人生100年時代となった今日において、急性期の“Life”は生命、命を救う医療。高橋病院が考える“Life”は患者とその家族の人生における生活そのもの。
高橋病院では将来の変化に備え、医療及びケアについて、本人を主体にその家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援するACP( Advance Care Planning :アドバンス・ケア・プランニング)への取り組みを促進している。つまり将来の患者本人の希望に沿った医療とケアの具体化のために活かすとの考えだ。
リハビリテーションへの対応を充実
「新病院では国際障害分類の改訂版として採択、加盟国に勧告している、健康状態、心身機能、障害の状態を相互影響関係および独立項目として分類し、当事者の視点による生活の包括的・中立的記述を狙いとするICF(国際生活機能分類医療基準)の考え方でリハビリテーションに対応します。
一方で生活環境も個人の問題、環境の問題などがあって、ご自宅に帰れないとか社会的な問題を抱えている方が増えてきました。当院では回復期リハビリテーション病棟80床を有しておりますので、そちらでのリハビリテーションが中心ではありますが、新病院の3階に設ける地域包括ケア病棟39床では、急性期治療を終了しても、直ぐに在宅や施設へ移行するのに不安のある患者さん、あるいは在宅や施設療養中から緊急入院した患者さんの在宅復帰に向けて診療、看護、リハビリを行ってから、在宅復帰に向けた支援を行っています。
その後、必要に応じて関連施設である介護老人保健施設でのリハビリテーションを行うことも可能です。法人全体でリハをし、地域でもリハをつなげるということで、通所リハビリ、訪問リハビリの提供を行っています。また、そのためのツールとして法人全体でICFシートを作成し、情報の共有を図っています」(高橋理事長)。
コミュニケーションとアメニティのスペース
1階には約160㎡のコミュニティスペースを設ける。このスペースについて、高橋理事長は、こう話す。
「コミュニティスペースは、小さなお子さんからお年寄りまで交流できるような場、ボランティアで外に活動していくという場と思っています。そこで広さも大きく取っています。
地域に向けたリハビリテーションの場として、いろんな方に集ってもらう。時任町は中部高校や巴中学が近くに立地している文教地区ですから、例えば学生さんたちの発表の場を設けるとか、いろいろなことをやっていければと考えています」
また、新病院はその構想段階から、スタッフも交えて自分自身がリハビリを受ける、あるいは入院する際に選択される病院となるようなアイディアを検討してきた。「生活、人生に関わる大切な時間を過ごす居心地のいい空間。心が癒される病院」の考えから、「動物フロアや温泉設備、バーカウンターなどがあってもいいと思う」とも高橋理事長は話していた。こうしたスペースについては――
「新病院では温泉掘削が難しかったのでセラミックボールを加熱して使用する、“お湯を使わない足湯”をコミュニティスペースに置くことにしました。また、お年を召すにしたがって、人のために何かをするという機会が少なくなって、ありがとうということばかりで、ありがとうといってもらうことがなくなってくる。
動物と触れ合うことは、癒しにもなりますし、動物に食事をあげたり散歩するなどお世話をすることで、自身の生きがいにもなる。そういう場所をコミュニティスペースの中につくってもいいのかなと思うのです。動物アレルギーの方への対処法、もちろん動物が嫌いな方もいますし、今後に向けて構想をまとめたいと思っています。
バーカウンターについては時々職員とも話しているんですが、うちの病院は急性期医療だけに対応するというものでありません。リハビリには身体の動きのリハビリもあれば、心のリハビリもある。そのためにストレスを和らげるものであるなら、お酒もありなんじゃないかということです。
4階に結構広いスペースで職員ラウンジを設けます。その中にアフターファイブにお酒が飲めるコーナーを設けて、飲食しながら勉強してもいいかもしれないし、飲食がともなえば自主勉強というか、隗より始めようじゃありませんが、まずは職員から試してみて、その後、患者さんにもと考えています。
うちの関連法人にあるケアハウスではお酒が飲めるんです。自立した生活を送られる方たちが住まれている施設なので問題ないと思っていますが、今度はそれを病院という施設のなかでやってみたいとも思っています」
元町の現病院はクリニックに湯の川とともに訪問診療展開
「湯の川と元町には2つクリニックとして残す予定です。今、訪問診療については300人くらいの患者が居ます。さらにニーズはありますが対応しきれなくて、お断りしているんです」と、高橋理事長は増加している訪問診療の要望を話ながら――
「現在は訪問診療専従の看護師6人と5、6名の医師が訪問診療に対応しています。湯の川クリニックも訪問診療を開始していて、移転後は新病院が訪問診療を統括する形で、3ヵ所を拠点として対応できればと考えています。患者情報については、同じ電子カルテですから共有することができます。訪問診療先でも電子カルテを活用しています」
また、元町に残すクリニックについては――
「特に西部地区は独居の方、あるいは老々介護で、お年召した方が多い。無料送迎の外来デマンドバスも運行していますが、新病院への通院していただくとなると、少し距離もあります。当院の130年の歴史の多くの部分は西部地区のみなさんにお世話になっています。社会的な責任としても、これからも診せて頂ければと思っています」と話す。
さらに高橋理事長は病院の新築移転が、市内の医療体制の刷新にも貢献できるのではと次のように話す。
「新病院が立地する時任町は、急性期病院が近隣にあります。それらの病院から退院する患者さんをうちの病院で引き受けてリハビリテーションを行ってからご自宅等に戻っていただく。
その後の外来診療については、急性期病院は外来よりも入院主体の面もありますから、容態の安定した患者さんに対する外来診療についてはうちのような中小病院の役割でもあるかと思っています。4月からは働き方改革で残業規制が始まりますので、機能分担、役割分担ということでは急性期との病院とも連携をより強固にすることで、住み分けができると思っています」