産婦人科医 新垣加奈先生講演「しんがき先生と学ぼう☆性の多様性とLGBT」

LGBTへの理解深めるイベント「虹をはいて歩こう」での講演再録

誰もが自分らしく暮せる社会の実現は性的マイノリティの「LGBT」を知ることから―――レインボーはこだてプロジェクト(RHP)が主催するイベント「虹をはいて歩こう」が10月28、29の両日、函館蔦屋書店で開かれた。市内の店舗とコラボしてのレインボーマルシェのほか、トークセッションなど多彩な催しが開かれた。この中で二日目に行われた産婦人科医の新垣加奈先生による講演「しんがき先生と学ぼう☆性の多様性とLGBT」を再録した。

【講演内容】(下の見出しをタップorクリックするとその講演内容にジャンプします)
性教育の授業で伝える情報
心の性別
シスジェンダー、ヘテロセクシャル
トランスジェンダー
LGBTを理解し支援するアライ
性を決めつけない話し方と態度
アウティングは凶器
医療者もL G B Tについて理解を

■新垣 加奈 先生

 皆さん、こんにちは。産婦人科医の新垣です。私はL G B Tについての基礎知識と、医療のことについてもお話いたします。
 私は函館出身です。高校卒業後は北海道大学に行き、大学卒業した後は色々な街に住みました。函館に戻ってきたのは8年前で、それからずっと住んでいます。大好きな町です。
 
 高校は女子校でした。女子しかいないことで、男性とのしがらみがなかったんですね。それなので職業を選ぶときも女子だからという感覚を持たずに済んだという感じもします。

 今、年間30回くらい性教育の授業に行っており自分のライフワークになっています。
 
 授業では学年に応じていろいろな内容を話しますが、その中に性の多様性、LGBTもあります。何年も話し続けている間にレインボーはこだてプロジェクトの方とつながり、今日ここでお話する機会を頂きました。
 授業ではぜんぜん知識のない子供たちを対象に10分から15分話す程度ですが、今日は40分、プロのみなさんの前で話すように言われ、ちゃんと話せるかと緊張しています。

性教育の授業で伝える情報

 子供たちにLGBTかも知れないと気づいた時期を聞いたアンケートがあります。2013年に行われたものですが、性別に違和のある男の子は幼児期に気付いている子は気付いている。小6までには、ほとんどの子が自覚しているといわれています。
 異性愛ではない男子、同性愛とかバイセクシャルということですが、中1の時。中学生は制服も変わるし、いろいろなことが変わる時期だと思いますが、中学校の時が一番多く、小6から高1頃に気付いている子が多いです。

 女の子の場合、性別に違和のある女子は中1の時に自覚している子がもっとも多く、異性愛ではない女子は中2が一番多く、小6から高1が一番自覚しています。

 以上から、性別違和を持つ子供達のためには、幼児期、小学校の早いうちに情報提供してあげるのが一番いいと思います。

 しかし、実際には小学校の授業でL G B Tを詳しく話すには与えられた時間が少ないため、同性を好きになることもあるし、誰も好きにならないこともあるし、体と心の性が違うと感じることもあるよ、という程度にお話しています。小学校の時から教科書にL G B Tについて書いてあったらいいと思います。

 生徒からの感想を一つだけお伝えします。『自分はLGBTに当てはまります。自分の性が不安だったけれど、自分らしく生きていいんだとわかりました』。文章は多少違っても、こんな感じの感想を時々頂きます。こんなふうに授業を聞くことで一人でも不安な気持ちが軽くなったら嬉しいです。

 また、先生の中にもいる当事者の方にも、きっと授業で扱う意味がありますし、学校で話題になるきっかけになって、養護や学校の先生がLGBTを授業で取り上げてくれたこともありました。
 当事者ではない生徒への情報提供はもちろん、未だにある教師たちの差別発言を減らすかもしれないというのと、未来の支援者になってもらう素地をつくるというのもあります。

 多数派の中にいる、まだ気づいていない当事者への情報提供にもなると思います。
感想の中に自分はバイセクシャルだと分かりました、アセクシャルだと分かりました、何かもやもやあったけど、自分はこれだったんだと気づいて安心する子がいるのです。あとはLGBT以外のジェンダー、男と女って何だろうという疑問に思うきっかけになるとも思います。

 これは中学校とか高校で出すスライドです。みんなの性別は誰が決めたのか。男の子に生まれよう、女の子に生まれようって決めて生まれてきた人はいますか。生まれた時にチンチンがあるから男の子、ないから女の子と私たち医者とか助産師が決めて、強制的に出生証明書にマルを付けるわけです。
出生証明書には男、女という枠があって、そこにマルを付けています。体の性別は自分で決めたわけではなく、割り当てられた性別といわれています。

心の性別
 
 身体の性別は見た目で決められますが、心の性別はどうでしょう。
一人の人間がいます。身体の性が決まれば、心の性、性自認とか好きになる性指向が自動的に決まるのでしょうか。昔は自動的に決まるものだと思われていたようです。1960年代にマネーという心理学者が、性自認は育て方で決まるという説を唱え、信じられていたそうです。

 ブレンダ症例というのをご存知でしょうか。小さいときの手術ミスで陰茎を失ってしまった男の子がおり、ご両親がマネーさんのところに相談に行ったところ、マネーさんはなんと精巣も取っちゃって、女の子として育てましょうと乱暴なことをしてしまいました。

 その後、彼は女の子として育てられたのですが、性自認は男性のままで変わることがなく、中学生の時に性別を男性に戻しています。この例から、出生したときに性自認が決まっている可能性が高く、育て方を変えても別の性になるわけではないことや、性自認、性指向は体の性で決まるのではないことがわかります。

 では何で決まるかというと、脳が関係しているのではないかという説があります。脳の深いところに分界条床核というところがあり、これは男の方が大きいそうですが、ここが性同一性に関係しているといわれています。
あとは前視床下部間質核というのが性指向に関係しているといわれています。

 昔は男脳、女脳と分けることができると言われていましたが、最近の研究では男脳、女脳なんていうものは、ほとんどないといわれています。

 2021年にNHKが『ジェンダーサイエンス』で取り上げた1400人の脳M R Iの研究があります。それによると、脳の部位には平均すると男性の方が大きい部分、女性の方が大きい部分がありますが、全てが男性寄りの男性、全てが女性寄りの女性というのは少なく、94%という大多数の人で男女混ざったモザイク脳でした。

 ということは、脳を見たときにこれが男の脳、女の脳と区別するのは難しいということです。脳の性は身体のように簡単に男女に分けられるものではなさそうですね。

■函館蔦屋書店2階ステージでの講演会

シスジェンダー、ヘテロセクシャル

 みなさん、自分を女だと思う、男だと思う、どちらでもない、どちらでもある。これは性自認、自分の性をどう感じるか。身体の性に関わらず何でもいいということです。これは他人が確認できるものではなく、本人だけが確認できるというのも大事なところです。

 あなたが好きになる性は、男、女、両方、恋愛感情がない、これもどれでもいいです。個人によって、その人の感じるままで大丈夫です。これは性指向、どの性を好きになるか、誰も好きにならないかというふうに考えています。
 自分で感じる性も、好きになる性も、身体の性が選べないように選べません。自分の心がそうだった。理由なんてよく分からない。何で自分のことを女だと思うのか、聞かれても分からない。

 人間の多数派は、身体と心の性が同じで、異性を好きになる。これを普通の人といいがちですが、シスジェンダー、ヘテロセクシャルといいます。
シスは同じということ、身体と心のジェンダーが一緒で、ヘテロというのは違うという意味で、ヘテロセクシャルは異性愛という意味です。

 私は普通ですというのではなくて、シスジェンダー、ヘテロセクシャルですっていうのがいいと思います。この言葉は、最近私も中学生、高校生に教えるようにしています。難しい言葉だから教えないというのでなく、教えたら生徒たちは覚えます。

 人間の少数派というのは、シスジェンダー、ヘテロセクシャルに当てはまらない人で、LGBTとか、LGBTQ+とか、セクシャルマイノリティなどと呼ばれます。

 シスジェンダー、ヘテロセクシャル、身体と心の性が一致して、好きになる性が異性。レズビアンは女性で女性が好きな人。ゲイは男性で男性が好きな人。バイセクシャルは男女どちらも好きな人。トランスジェンダーは、身体と心の性が違う人。その頭文字をとってLGBTと言います。

トランスジェンダー

 トランスジェンダーに関する用語は色々ありますので、解説します。まず性同一性障害です。Gender Identity Disorder、GIDといったりします。もともとトランスジェンダーが病気とされていた時代がありましたが、今は病気でないといわれています。ただトランスジェンダーの方のなかには、身体の手術を受けたり、ホルモン治療を受けたり、医学的治療が必要な方がいて、医療を保険診療で行うためには、病名をつけなくてはいけません。仮の病名と考えてくれれば一番いいかと思います。

 男性として生まれたけれど、心は女性と感じるというトランスジェンダー女性のことをM T F(male to female)と言います。最近、医学的にAMAB(Assigned Male At Birth)といって、生まれたときに割り当てられた性が、男性だったという言い方も出てきています。トランスジェンダー男性は、FTM( female to male)やAFAB(Assigned Female At Birth)と言います。混乱するかもしれませんが、こんな言い方もあると覚えておいてください。

 L G B T以外にも性はいくつもあるのですが、Q、A、Xを紹介します。Qはクエスチョニング(Questioning)、クィア(Queer)と呼びます。クィアという言葉は、アメリカなどではLGBT全体を表す言葉としても使われています。心の性や好きになる性が分からないとか決めていないという状態です。最終的に決めるのを迷っている状態も当てはまります。

 Aはアセクシャルのことで、性的欲求がない、恋愛感情がないというのを意味します。

 XはXジェンダーのことで、男性でも女性でもないと感じる性のことです。感じ方は個人によって違い、中性と感じたり、両方の性があると感じたり、まったく性がないと感じたり。

 色々お話ししましたが、L・G・B・Q・Aは性指向に関するもので、T・Q・Xは性自認に関するものと混在しており、わかりにくい面があります。

 それらをまとめるためにソジ(SOGI)という言い方があります。性自認、性指向をまとめた言葉で、S O G I は誰にでもある。LGBTという言葉は、その人そのもの、一人一人を表しますが、SOGIは、それぞれが異なる性自認・性志向を持っているという感じでしょうか。より良くするために次の用語が生まれてきていると考えると良いと思います。

 自分の中にある性は一つではなく、いつくかあります。ジンジャーブレッドクッキーというショウガ味のクッキーがありますが、それをもじってジェンダーブレッドパーソンという性の種類を表すわかりやすいキャラクターがいます。これによると、性には、体の性・自分の感じる性・好きになる性・表現したい性の4つがあります。
 まず身体の性は女性、男性のほかにインターセックスという女性・男性と分類しにくい性があります。

 インターセックスは性分化疾患ともいい、性染色体やホルモンに関わる働きの異常が原因で、性腺、外性器などが生まれつき非典型的な状態であることを言います。新生児の約2000人に1人といわれています。

 アメリカの例を出します。アメリカで今、どのようなLGBTQ+の権利が出来ているかというと、出生証明書やパスポートに、男女以外の姓としてXを選ぶことができます。
 医療分野では、戸籍の性別が自分の希望と違う場合、医療文書に性別記載をしなくてよい良いそうです。

LGBTを理解し支援するアライ

 電通ダイバーシティ・ラボのホームページにアライアクションガイドというのがあり、とても参考になりますので今日は一部を紹介します。
まずLGBTが身近にいないという意見に対してです。支援したいけど、身近にいないからできないという方へ。知らないだけで、身近にいる可能性が高いです。自分の態度によって、今後カミングアウトされるかもしれませんから、普段から周りにいると思って行動することが大切です。

 L G B Tの方は少なくとも人口の5%はいるというデータが多いです。5%は少ないと感じるかもしれませんが、例えばA B型の人や左利きの人が人口の5%程度と言われています。少ないけれど必ずいるということを意識するのが良いと思います。

性を決めつけない話し方と態度

 次に、普段の言動で差別や決めつけ発言をしないように気をつけることが大切です。また、まわりで差別の言動があったら、それは差別だよといえたらいってもいいし、さらっと話題を変えて、その話題を止めさせるということも素敵な行動だと思います。

 差別用語を知っておくことも必要です。ホモ、オカマ、オネエ、オナベというような差別用語があるので、それは使わないようにするのはもちろん、ゲイという正しい言葉を使ったとしても、内容自体が差別になるような発言をしない。しないだけじゃなく、そういうふうに考えないということが大事なことです。

市内ショップとコラボした『レインボーマルシェ』も

 決めつけ発言をしない、ということについてです。性を決めつけない話し方や態度を心掛ける、異性愛を前提にして、彼氏、彼女といういい方をせず、恋人、パートナーという言葉を使うのがおすすめです。

 お父さん、お母さんという言い方は、LGBTに関係なく、お父さん、お母さんがいない方もいるので、私は保護者の方・親御さんと言うように心がけています。

 私には子供がふたりおりますが、気を付けてきたつもりでも、多くのジェンダーの刷り込みをしてしまったと今になって思います。男の子だからこうあるべき、女の子だからこうあるべきという考えは、自分も幼少時から刷り込まれているせいもあり、子供に押し付けがちになります。
でも、大切なのは人間としてどうかということです。転んだ子に「男の子だから泣かないの」と言いがちですが、人間としてどうなのかと考えると、痛かったら泣きますし、そこに男女は関係ありません。その他に男女に分けやすいのは与えるおもちゃ、服の色、家事を女子だけにさせるなどがありますね。

 性教育授業の後に頂いた中学生からの感想に、自分は3人兄弟で、自分だけが女で他は男なのだが、母が自分にばかり家事をさせるのがとても嫌だ。これはどうしてなのか、とありました。きっとお母さんも、女だけが家事をする環境に育ってきたのだろうとは思うのですが、家事はみんなができた方がいいことですから、男女関係なく家事炊事の技術を教えてほしいです。

アウティングは凶器

 アウティングというのは、L G B Tであることを本人の承諾なしに第三者に暴露することです。これはSNSで書き込みすることも入ります。

 以前にアウティング事件、一橋大学で自殺した大学生がいました。自殺の原因がLINEの文章なんですが、友達にゲイなんだって言ったら、何の断わりもなくグループLINEに俺はお前がゲイであることを隠しておくのは無理だって回して、みんなにばれてしまったということで、その後、彼は自殺してしまったんですね。

 親御さんが大学の対応がまずかったんじゃないですかと裁判になりました。ばらした子を訴えたんじゃなくて、大学に対して訴えを起こしたんですが、結局負けてしまって、負けた後に弁護士さん、弁護士さんもゲイの方なんですが、おっしゃったことを紹介します。

 同性愛者がそのことを隠さざるを得ないのは、世の中に同性愛への差別、偏見がたくさんあるからです。今の状況ではアウティングが凶器になることが、異性愛が当たり前だと考える人には理解されていない。亡くなったA君のことを明日の自分と考える人がたくさんいることを異性愛が当たり前と考える人や裁判官が気付くことが大切だと思います。そんなふうに伝えてくれました。

 ただ、カミングアウトをされた方も戸惑うだろうと想像がつきます。しかし、戸惑ったから暴露していいわけではありませんよね。相談できる場所に連絡してみることも良いですし、できればカミングアウトされる前から、正しい知識をもっていればもっと良いですね。カミングアウトされた時は、こうするのがいいよ、と教育で伝え、皆が知っている世の中になるのが理想だと思います。

 今はアウティング禁止条例の地区があります。また、パワハラ防止法が制定され、職場でアウティングをしたらパワハラで罰せられます。この前、職場でアウティングされた方が労災認定されましたとニュースになりましたね。

医療者もL G B Tについて理解を

 LGBTの方に起こりやすい健康問題についてお話します。うつ病などの精神疾患や、HI Vなどの性感染症の問題を始め、レズビアン・バイセクシャル女性は健診を受けに行かれない方が多いのか、乳がんのリスクが高いそうです。病院に行きたいけれど、行かずに我慢した経験のあるトランスジェンダーの方が多くいるという報告もありました。

 病院での困りごととして、トランスジェンダーの方で戸籍の性別変更をしていない方にとっては、保険証の性別と見た目が違うことが大きいと思います。

 現在、保険証の性別は、表面の記載欄に裏面参照と書き、裏面に「戸籍上の性別は男、女」と書くことが可能です。これにより医療者に、この方はトランスジェンダーやXやXジェンダーなのかな、と思ってもらえるきっかけになりますね。

■講演後のパネルディスカッション

 病院側ができることとして提案したいのは、問診票に「その他」の性別欄を設ける、パートナーシップ証明書のことを知っておき、持参された方に適切な対応をすること。他には、L F B Tフレンドリーであることを表明するために、私の勤務する病院は、受付にレインボーフラッグを掲げています。医療者が白衣にレインボーのバッジを付けるのも、アライだと証明することができて良い方法ですね。
 
 次に病状説明についてお話します。医療者は、親族以外に病状説明してはいけないという思い込みがあるかもしれません。厚生労働省の「医療・介護関係事業者における 個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」で、「本人以外の者に病状説明を行う場合は、本人に対しあらかじめ病状説明を行う家族等の対象者を確認し同意を得ることか゛望ましい。この際、本人から申し出がある場合には治療の実施等に支障の生じない範囲において現実に患者の世話をしている親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加えたり家族の特定の人を限定するなどの取扱いとすることができる」と書いてあります。本人の申し出があれば、親族以外に話しても問題ありません。

 また、当事者の方々は緊急連絡先カードを携帯するのもおすすめです。こちらには、緊急連絡先やパートナー証明があることを記載できるので、緊急時にも自分の意思を表明することができます。

 最後に私のような婦人科医ができることを考えてみました。現在、トランスジェンダーの方にホルモン治療を行っていますが、その他にも、かかりつけ医として頼ってもらえたら良いと思います。必要があれば私から他院に紹介することも可能です。また、Xジェンダー女性などで月経に嫌悪感がある方には、低用量ピルなどを使用することで月経回数を減らすことが可能です。

(2023年10月29日「虹をはいて歩こう」での講演から再録)