「こうして歯は失われる~①歯周病って、どんな病気」

※2016年9月29日に開かれた函館歯科医師会主催「お口と体の健幸講座」での川瀬デンタルクリニック 川瀬 敬 院長の講演要旨。

歯を失うことを避けていくためには、歯を失う原因を知らなくてはなりません。
歯を失う原因は、歯周病が41%、虫歯が32%、歯の破折が3番目の原因です。矯正治療等で抜歯が必要になった場合、その他。これは若い時に親不知(おやしらず)を抜いたような原因です。

年齢別に欠損の原因をみると、歯を失うピークは60歳から64歳です。40歳くらい前までは、虫歯で失う比率が高いのに対して、40歳以降は歯周病で歯を失うことが多くなっています。

歯周病とは

歯周病について講演する川瀬院長

虫歯はどの年代でも平均して失う原因になっているのが特徴です。

歯の破折は、60歳前後の人に多く見られる特徴があります。65歳以上で下がっていくのは、総体的に歯がどんどん減っていくので、減少していることを読み取ることができます。

歯周病とは、どんな病気でしょうか?歯の病気でしょうか?肉の病気でしょうか?骨の病気でしょうか?

歯周組織という歯茎や骨が歯を支えています。歯を家に例えると、どんなに立派な家を建てても、土台が悪ければ、ぐらついて抜けてしまいます。歯周病は歯肉の病気ですが、歯を支えているのは、中にある歯槽骨という骨です。歯周病が進行すると、この骨が吸収するので、骨の中の病気と捉えてもいいと思います。

歯周組織の構造をみると、歯の部分はエナメル質、象牙質、神経で構成されています。歯周組織は歯茎とセメント質、歯根膜、そして周りの歯槽骨で構成されています。

健康な人の歯肉と歯周病の人の歯肉が、どう違うのかというと、健康な歯肉はピンク色で、歯と歯の間もきれいに三角形に尖っていて、固さも固く、出血等も認められません。歯周病の人の歯肉は、歯肉の色が赤く、歯と歯の間に隙間があって、形が丸く、固さもぶよぶよして、出血が認められます。

歯周病は、いきなり始まるわけではなく、最初は歯肉炎という炎症が起こります。歯肉炎は歯肉溝といわれる歯と歯肉の境目の溝から、歯周病菌が侵入して炎症を起こします。これにより血管の拡張、うっ血が起こるために歯肉が赤く脹れたり、出血しやすくなります。

歯肉炎の特徴は、歯を支える歯槽骨に骨の破壊、吸収が見られない点が歯周炎と大きく異なります。

歯肉炎は歯を支える骨、歯槽骨が無事でも、歯肉が脹れて、歯肉溝が深くなります。こういうポケットを仮性の歯周ポケットといいます。歯肉炎からさらに進行すると歯周炎となり、歯槽骨の破壊が始まります。それによりできたポケットを真正の歯周ポケットと呼びます。軽度の歯周炎では歯周ポケットが3ミリから5ミリ、中等度で4ミリから7ミリ、重度で6ミリ以上となります。歯槽骨の破壊に伴い、歯がぐらつき、重度の歯周炎では、自然に抜けてしまう事もあります。

歯周病の原因は細菌

歯周病の直接的な原因は、口の中の細菌で、歯垢というプラークの中に潜んでいます。歯の表面に生息する虫歯菌と違い、歯周病菌は空気が嫌いな嫌気性菌で、歯と歯茎の隙間の歯周ポケットに生息しています。

歯垢が大気中のリン酸カルシウムによって固く石灰化したものが歯石です。歯石は固く、歯の表面にこびりつき、歯ブラシなどでは容易に取れません。歯科医に取ってもらう必要があります。

歯周病に関係する口腔内細菌は、10数種類あるといわれていますが、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスなど代表的な歯周病菌が歯周組織を破壊していきます。

歯周病も生活習慣病

歯周病も生活習慣病のひとつです。生活習慣病とは、食習慣、喫煙、運動習慣、過労、飲酒など、生活習慣が不適切なことが関与して生じる疾患です。以前は成人病と呼ばれていましたが、厚生労働省は1996年に成人病から生活習慣病へと名称を変えました。

歯周病は元来、口腔局所の病気とされてきましたが、近年、歯周病自体が原因因子として、全身の病気を引き起こしたり、すでにある病気を悪化させたりするリスク因子であることが明らかになってきました。 関連があるといわれる全身疾患として、狭心症、心筋梗塞、心内膜炎などの心臓疾患、糖尿病、肺炎、気管支炎などの呼吸器疾患、骨粗鬆症、低体重出産、早産などが挙げられます。このような歯周病と全身疾患を取り上げる雑誌や新聞を見かけることが多くなりました。

歯周病と喫煙の関係

函館歯科医師会館での「お口と体の健幸講座」

喫煙者と非喫煙者の22歳の双子が40歳時を予測した有名な写真があります。喫煙者は上まぶたが下がり、下まぶたがたるみ、目の下にはクマができ、深いほうれい線、まぶたが色素沈着、血色も悪い。口元も上方唇のシワ、あごのたるみ、歯にはヤニが着き、歯肉の色も悪く、歯と歯の間の隙間も目立ちます。明らかに老化が進んでいることが分かります。タバコを吸っていない健康な歯肉と比較して、喫煙者の歯肉はメラニン色素の沈着が著明に認められ、ニコチンの影響で毛細血管が収縮し、歯肉は青紫色、線維性でゴツゴツした感じになります。また、歯面にはヤニが付着しています。

2000年に約1万2000名を対象とした1日の喫煙の本数と歯周病の発症の関係がアメリカで発表されました。まったくタバコを吸わない人を1として、9本以下で2・79倍、10本から19本で2・96倍、20本で4・72倍、21本から30本で5・10倍、30本以上で5・88倍です。つまり、1日20本以上のヘビースモーカーは、吸わない人にくらべて、歯周病に5倍なりやすいということが明らかになりました。

喫煙が歯周組織に影響を与えるポイントは、喫煙者と非喫煙者では、プラークの付着量にあまり差が無いのに、歯周組織の抵抗力に影響します。つまり、口腔免疫力を低下させるということです。また、タバコは自分の歯周組織を傷つけるともいわれます。それゆえ喫煙されている方は、歯周病に罹りやすく、さらに重症化しやすい環境になります。 それでは、このような口の方は、もう抜歯をしなければならないでしょうか。まず禁煙をして、歯科医で定期的なメンテナンスを受け、お家での正しいブラッシングを身につければ、健康な状態にすることができます。

歯周病と心臓病の関係

心臓病には、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患、心内膜炎などがあります。虚血性心疾患の大半は、冠動脈の動脈硬化です。動脈硬化は加齢のほか、高脂血症、糖尿病、喫煙高血圧、高尿酸吐血血症など病気が関係しています。 これらの病気が相互に絡み合って、血管壁に脂肪分が蓄積したり、血管壁の細胞を傷つけたり、炎症を起こしたりします。 歯周病と心臓血管疾患の関係は、歯周病菌が血液中に侵入し、血管壁の細胞に炎症を起こして、動脈硬化の進行に関わってしまう可能性があるとされています。

冠動脈にできた血栓を動脈硬化性プラークをアテロームといいますが、このアテロームから歯周病が検出された報告が、国内外で発表されました。 2004年の東京大学医学系研究科の研究は、歯周病と心筋梗塞の関連を示した比較的新しい報告です。金融保険系企業の36歳から59歳の男性労働者3081名を対象に質問票を用いて、歯肉の状態を評価した上で、その後5年間の回答者の健康状態を追跡調査しました。 その結果、歯周病スコア、歯周病といわれたことがある、喪失し5本以上の3項目から、歯周病が強く疑われる男性労働者は、そうではない者に比べてのオッズ比は、2・11、2・26、1・97と心筋梗塞の発症が約2倍であることを明らかにしました。

歯周病は糖尿病の合併症

これは日本のデータではありませんが、糖尿病と歯周病の関係について、比較的有名な報告があります。 北アメリカ先住民のユマ族は、約4割の確率でB型糖尿病を発症するそうです。そこで15歳から54歳のユマ族を調査したところ、全年齢層で糖尿病に罹っている層は、糖尿病に罹っていない層に比べて、歯周ポケットの数値が大きかったことが報告されています。このことからも糖尿病と歯周病には因果関係があると記されています。

糖尿病になると様々な合併症を引き起こすことをご存知の方も多いのではないでしょうか。糖尿病の合併症は、3大合併症として、糖尿病性の腎症、神経障害、網膜症が有名です。他にも様々な合併症がありますが、そのひとつとして歯周病も含まれており、糖尿病の第6番目の合併症といわれています。

糖尿病が歯周病を悪化させることは、糖尿病による高血糖が血管の基底膜を肥厚して血管症がまず起こります。これが様々な合併症の原因で、歯周病も悪化するといわれています。 さらに糖尿病は、白血球の機能低下、コラゲナーゼの機能更新でコラーゲン線維の破壊が進むことで、感染しやすく、炎症が拡大しやすく、治癒が遅くなるので、歯周病はより悪化することになります。

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