膝関節外科に特化した治療体制の特徴と患者へのダメージが少ない膝関節鏡視下手術
●医療法人悠康会函館整形外科クリニック 理事・副院長 前田 龍智 先生
函館市石川町2番地115 TEL.0138-34-5700
道南初の膝関節外科に特化した高い専門性を持って開院した『医療法人悠康会函館整形外科クリニック』(理事長・院長:大越康充先生、函館市石川町)は、本年6月で開院11年目を迎える。開院時から質の高い医療を提供してきた同クリニックは、日々進歩する手術手技を取り入れ、専門性の高い治療体制を進めている。同クリニックの前田龍智副院長に改めて膝関節外科に特化した治療体制と膝関節鏡下手術について話してもらった。 |
クリニックの特徴を教えてください。
当院では全ての膝関節疾患に対して、通院治療と手術治療を行っています。主に扱う疾患は、高齢者の膝の痛みの原因として最も多い「変形性膝関節症」、スポーツで受傷することが多い「膝前十字靭帯損傷」、「膝後十字靭帯損傷」、「半月板損傷」、「膝蓋骨(膝のお皿)脱臼」などです。
通院治療はどのような治療があるのでしょうか?
通院治療では生活指導、お薬の処方、ヒアルロン酸の関節注射、リハビリなどです。
では、クリニックで行う手術には、どういうものがあるのでしょうか?
変形性膝関節症に対しては「膝人工関節手術」や「高位脛骨骨切り術」、前十字靭帯あるいは後十字靭帯損傷に対しては「靭帯再建術」、膝蓋骨脱臼に対しては「膝蓋骨制動術」を行います。
半月板損傷の治療に関しては、大きく分けて二つの治療法があります。「半月板縫合術と半月板切除術」です。半月板縫合術は、損傷している部分を糸で縫い合わせて修復するものです。以前は治りやすいタイプの損傷に対してのみ行われていましたが、手術方法の進歩によって難しい損傷も治せるようになりました。当院の鈴木副院長は、この治療のスペシャリストです。
救急性が要求されるのは、どのような時ですか。
一つはケガによる骨折です。ひどい外傷で全く動かせない、歩けないような場合は、膝の骨折の可能性があります。救急車を呼んだほうがいいですね。また、膝の化膿性関節炎も比較的緊急性があります。これは何らかの原因で膝の中に細菌が感染してしまう状態で、膝が腫れて熱を持ち、身体の発熱や安静時の痛みがあります。夜間であれば夜間急病センター、日中であれば整形外科を受診しましょう。
ケガによる膝の脱臼も、時に緊急の対応が必要となります。脱臼が整復されない場合は救急車を呼ぶべきです。自然に整復され、痛みがそれほどでもなければ、充分なアイシングと安静にしつつ、早めに膝専門の整形外科を受診されたほうがいいです。
膝の“ロッキング”と云いまして、損傷した半月板や軟骨が膝関節に挟まってしまい、膝の曲げ伸ばしができなくなってしまう状態があります。このような場合、痛みが我慢できれば緊急性はありませんが、できるだけ早いうちに膝専門の整形外科を受診して、処置をしてもらったほうが良いです。
患者さんが診療を受けようと判断する一番の基準は、痛みだと思うのですが。
そうですね。それは当然ですね。安静にしていてもひどく痛い場合は、緊急性が高い疾患の可能性がありますので、日中であれば整形外科、夜間であれば夜間急病センターなどを受診してください。また、歩行や階段昇降動作やスポーツ動作など、何らかの動作で痛い場合は、急がなくても良い場合が多いです。都合のいい時に膝専門整形外科を受診してください。
患者さんにはクリニックを受診する判断がむずかしいですね。
当クリニックは膝関節専門で、予約制の診療を行っています。外来診療のほかに毎日手術も行っていますので、予約なしでの診察ができない場合が多く、皆さんにご迷惑をおかけしています。電話を頂いた際に、緊急性があるかどうかを判断し、当院での専門的な治療を早急に行ったほうがよい状況と判断された場合は、少々お待たせするかもしれませんが、何とか対応させて頂きます。
クリニックで行っている関節鏡視下手術※について教えてください。
手術は身体の一部を切開して行いますので、いかなる手術でも身体は侵襲つまりダメージを受けます。これは手術のマイナスの部分です。しかし、手術によって膝の痛みが改善されるので、これは手術のプラスの部分です。手術のプラスの部分がマイナスの部分より大きければ大きいほど、患者さんは手術を受けて良かったと満足できるのです。
膝を大きく切開して行う手術では、皮膚、関節そして筋肉を切開するのでマイナスの部分が大きく、回復にも時間を要します。それに較べると関節鏡視下手術は、直径6~7ミリの細い内視鏡を小さな切開から膝の中に差し込んで行うため、手術侵襲つまりマイナスの部分が小さく、回復が早い手術です。したがって、手術によるプラス部分(原因解決の効果)が相対的に大きくなる治療法です。当院で行っている鏡視下手術には、靭帯再建術、半月板手術そして検査があります。
半月板損傷を早期に関節鏡下手術したケースを教えてください。
中年男性の方で、膝内側に痛みがありました。また、歩行時に引っかかる症状があり、時々膝くずれを生じるということでした。診察で半月板損傷を疑いMRI検査を行ったところ、半月板損傷の所見が認められました。また、損傷した半月板が引っかかる様な症状の自覚がありました。もし、そうであれば関節軟骨が傷つけられてしまいますので、関節軟骨の損傷程度を把握する必要もあると考えました。
この患者さんの治療法の選択肢としては、膝関節内の検査と損傷した半月板の処置を目的とした鏡視下半月板切除術と、もう一つは、投薬あるいはヒアルロン酸の関節内注射などの保存治療が挙げられ、それらについて説明しました。保存治療で改善が見られなければ、鏡視下半月板手術を行うことになる旨も説明しました。
この患者さんは、できる限り早期の解決を希望されましたので、鏡視下半月板切除術を行うこととしました。手術の結果、症状のほとんどが改善されました。この患者さんは、治療結果にとても満足されており、ご本人からご自身の治療経過について是非公開して欲しいという御希望があり、今回のインタビューを受けるきっかけとなりました。
一般的に、保存治療は症状改善までにはある程度の時間がかかることが多いです。また、根本的治療ではなく、症状を和らげる治療となります。その代表的治療であるヒアルロン酸の関節内注射を行う場合は、注射の回数や間隔を予め決めて計画的に行い、治療効果判定をきちんと行うことが重要です。注射の効果がないのに漫然と継続しても意味はありません。
当クリニックでは、医師が保存治療を行ってみる価値があると判断し、患者さんもそれを希望したら、保存治療をしばらく行ってみます。そして、その効果をきちんと評価しています。もし、一つ目の保存治療の効果がなく、他の保存治療の選択肢があれば、次の治療としてそれを試みます。それでも効果がなければ、最後は手術的治療を考えるなど、段階的なプロセスを踏んでいます。
手術療法を選択するには、医師からの十分な説明が不可欠ですね。
説明して納得してもらう、というのがインフォームドコンセントです。回復の期待度、合併症の可能性、ほかの治療法の選択肢、などについて説明し、患者さんやご家族が納得されたうえで手術を受けることが大事です。僕は患者さんやご家族への説明を大事にしています。
※関節鏡視下手術:従来、関節の手術は大きな切り口となり、入院期間も長く患者への侵襲も大きかった。関節鏡下手術は、関節周囲の皮膚面に2~3カ所の小さな穴を開け、小型カメラを付帯した内視鏡を挿入し直接損傷部位の修復や損傷組織などを摘出除去する。手術は生理食塩水を流しながら行うことで感染症を起こしにくく、正常組織を傷つけにくい、痛みが少ないなど患者の負担が小さい。