コロナ禍で治療・介護の食事はどう変わったのか 

食品卸が取り組む健康食品としての新たな提案

 株式会社アキヤマ 業務用食材・関連機器販売・宅配事業
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5月8日から5類に移行し、新型コロナ感染予防は新しい局面に入った。3年余に及んだコロナ禍のなかで病院や施設、あるいは居宅で利用される治療食、介護食には、どんな変化があったのか。また、これらを扱う業務用食材卸は、顧客にどういう対応をとったのか。病院食などの専門家である管理栄養士の川村順子先生と全国病院用食材卸売業協同組合に加盟、治療食や介護食も扱う㈱アキヤマの小林久周社長、小林周平専務、小林和久常務、根本琢巳部長に聞いた。


「メディカルページ函館・道南版2023年夏号」(令和5年7月20日発行)の冊子に掲載された記事です。

 

川村先生、コロナ禍で病院食や個人が摂食する治療食、療養食、また高齢者の介護食などに変化はありましたか。

 コロナ禍ではチーム医療が難しかったと思います。たとえば摂食や嚥下が困難という患者様には、コロナ前にはドクター、言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師、検査技師がチームになって対応していました。それが感染予防からチームとして集まることが難しくなりました。患者様のベッドサイドに直接伺えるのは、看護師さんだけとなり、栄養指導は個室で行うのですが、栄養士さんが患者様のところを直接伺うことを控えていたようです。
介護施設も制限がかけられて、同様に在宅でも、お宅に伺って密閉された空間の中での栄養指導が制限されました。利用者の方も栄養士の側もお互いに相手のことが直接見えないので、理解し合うことが難しかったですね。

病院や施設の給食に変化はありましたか。

■川村 順子 先生

 給食自体に大きな変化はありませんでした。ただ摂食・嚥下については、脳血管障害を起こされた場合、ほとんどの方が嚥下能力や摂食能力も低下します。入院中の食事もゼリー食からミキサー食、ソフト食というように変わっていきますが、その名称が全国的に統一されたものではありませんでした。
病院や施設では食事は手作りのものが多く、ゼリー食、ムース食、ソフト食といっても、食品が持つ物性は、それぞれの病院や施設によって違います。嚥下しやすくするとろみ調整剤には、いろいろな種類があり、粘調度が高くなれば、とろみも強くなりますが、その粘調度は統一化されていませんでした。
一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会は嚥下調整食のコードピラミッド(図を参照:摂食・嚥下の難易度にもとづき、普通食から嚥下食までのレベルでコード分類している)をまとめています。コードピラミッドにより、病院から施設へ移る場合や退院されて在宅にもどる場合も、分類表にあるコード名で同じ硬さのレベルのものを食べられる目安にしました。退院されてご自宅に戻っても、コードから同じ硬さのレベルのものを食べることができます。
一般的にソフト食といわれていても、市内のすべて病院ごとにソフト食の硬さは異なります。粘調度をはかることもできないので、学会コードで分類しましょうということになりましたが、なかなか普及していない現状です。

普及しない理由はありますか?

図:嚥下調整食のコードピラミッド

 学会コードでは、たとえばミキサー食でも、ザラつきのあるものとなめらかなものと2段階に分かれています。でも施設や家庭でコードに準じて調理するのは、手間暇もかかり難しいです。ゲル化剤やとろみ調整剤を入れる必要があるので、コストもかかるという理由も普及を妨げているのかと思います。
そこで学会コードの普及と統一化を進めるために考えられたのが、ユニバーサルデザインフードです。各メーカーが学会コードのこの分類に該当するのは、この商品と学会コードと紐づけして製品化したもので、学会からユニバーサルデザインフードとして認定されます。
1食分のパックも市販されていますから、家庭でも実際にその商品を食べてみて、示されたコードの物性を確認してから、それに近づけたものを調理していくことが可能です。病院でも物性を統一するために使われています。
ゲル化剤やとろみ調整剤は、食材のph(ペーハー:水素イオン指数。酸、アルカリの度合いの強さを表す単位)によっても使う量が変わりますし、脂質の量によっても変わります。タンパク質や塩分量などによっても変わります。ですから退院の際の栄養指導で、ミキサーにかけた後の調理品100gに対してゲル化剤を大匙1杯と指示しても、phやタンパク、塩分などの量によって硬さが変わります。
同じ硬さのものを調理するのは難しいこともあって、病院でもユニバーサルデザインフードを使っているところもあるのが現状です。ですからユニバーサルデザインフードは病院でも使われる治療食であり、家庭で使われる介護食でもあります。

学会コードやユニバーサルデザインフードの利用が大切ですね。

 治療食は疾患の症状を和らげたり改善に向けていくために栄養素のコントロールをしたり、適正なエネルギーを摂ったりするためのものです。でも合併症で摂食嚥下機能が低下していたら介護食になります。頭頚部のがんというのは摂食嚥下に最も影響があります。脳、食道、口腔内でもメスを入れたり、放射線治療をしても、咀嚼や飲み込みがうまくいかない。それぞれ大元の原疾患があるけれども、形態としては介護食ともいえます。退院されてご自宅に戻られる時やほかの施設に移られる場合、栄養士は病院食がコード2の場合、ご自宅や移られる施設でも同じコード2をアドバイスします。逆に施設利用者の方が病院に入院される時なども、このコードのものを食べていましたと申し送りします。病院から施設に移って来る場合、病院あるいは施設ごとに伝達ツール書式フォーマットをつくります。その情報の中に学会コードの記入を要望しても記入の無い場合が多くみうけられます。広く啓蒙できることが今後の課題です。

小林社長、アキヤマはコロナ禍にどう対応したのでしょうか。

■小林 久周 社長

 コロナ禍であっても当たり前のことを当たり前にやるということです。マーケットが伸び悩んでいる時に自分たちが伸びるというのは危険があります。現状をしっかり見極めて、お客様は今何を求めているのか、何を困っていらっしゃるのかをお聞きしてスピードを持って対応していけば、いずれよくなる。今はお客様を増やすよりも逃がさないこと。そのためには自分の欲求を満たして欲しいというのがお客様の声を聞くことです。
 物流は欲しい時間に届けるのではなく、欲しい時間の前に持っていかなければならない。ミスを犯したらアキヤマの73年の信用は一瞬にして崩壊します。今月が決算で、あと3日残していますが、大体2019年の売上をオーバーして非常に順調に推移しています。

小林専務はいかがですか。

 コロナ禍で外食産業の売上がほとんど皆無の状況となりました。その中で、全国病院用食材卸売業協同組合に加盟の商品を扱うことで病院や施設の仕事を継続出来たことは売上の面からも本当に良かったと思います。特に川村先生がお勤めの今井メディカルさんなど、函館市内の病院関係のお客様には助けていただきました。

コロナの5類移行に伴う市場変化を社長はどう予想されていますか。

 当社は外食産業のホテルやレストラン、それと製菓、製パンそれに学校給食、病院給食、治療食、さらに在宅の宅配という5本柱が事業。2類から5類に変わり、日常の行動が自由化され人が動き始めた。人が動けば外食産業を始め食べ物の需要が活性化しますからホテルやレストランは今大忙しです。ただ人手不足と顧客が安定していないから、100室ある部屋数のうち満室は80室。固定費を減らすしかないけど、電気、水道、ガスの料金も上がっています。
問題は働き手、人の問題。求人募集をしても高卒も大卒も来ない。1人で連続8時間以上の運転がだめになる2024年問題でドライバーも必要。2人で交代してカードでチェックされる。当社も早出、残業が非常に増えました。定数でやっていれば1人当たりの労働時間が増え、人件費の増加も大きいです。

小林専務、新しい販売活動の計画はありますか。

■小林 周平 専務

 当社は宅配システムを使って、治療食や介護食をお届けしていますが、健康な人でも美味しく食べられるような治療食品や介護食品もたくさんあります。これまでの治療食、介護食という固定観念を外して、ご家族みなさんが食べられる食事ということを知ってもらうことがアキヤマの生き残りのひとつと考えています。治療食や介護食という名称ももう一度考え直して、誰でも食べたくなるようなデザインを全国病院用食材卸売業協同組合にも提案する必要があると思います。
 今秋の展示会も2019年度並みのものに戻したいと思っています。栄養士のみなさんにも、新しい食事の提案や流れをみていただき、実際の病院食や家庭の食事に生かしてもらえるような展示会にチャレンジしたいと考えています。

小林専務はワールドグルメプラザの活用は考えていらっしゃいますか?

全国病院用食材卸売業協同組合の会員しか扱えないプライベートブランドがあるんです。ワールドグルメプラザにコーナーを作って、その商品を提案したいと考えています。まずは知ってもらい、お客様に手に持ってもらう。常温品、冷凍品もありますし、完全調理品も出てきていますので、それを知ってもらう取り組みが必要だと思っています。どうしたら時短になるか、人手不足を解消できるかというのは全国共通の課題です。こういう商品があるということをお客様に広く知っていただくことが重要です。

小林常務は2020年4月にアキヤマに入社。勤務時期がコロナに重なりましたが感想は?

■小林 和久 常務

 人と接することが禁止されて、営業はどうやって対応してくのか、業務体形や配送もいろいろ考えました。業務用の販売、卸をゼロにはできませんから、営業マンがお客様のところにお伺いする発注形態をスマホから発注できる形態にしました。お問い合せも当社のホームページを活用していただくなどと形態を替えました。そうした取り組みが少しずつですが実績を上げています。今後も新たな活動として取り入れていこうと思っています。函館から一歩進んで出る時、オンラインでのデータのやり取りは、絶対に必要になると思います。   東京にも商品を送るような物流を構築したり、まだまだやりようはあると思います。当社は函館沿岸で採れるがごめ昆布が原料の『がごめつるり』を専売商品として昨年から扱っていますが、市内のホテルで函館らしい朝食メニューのひとつとして提供していただいています。そうした商品も含めて、70年以上函館で商売をしてきたアキヤマが、80年目は世界を目指して頑張りたいと思います。

根本部長、治療食や介護食を製造するメーカーに変化はありますか。

■根本 琢巳 部長

 治療食は治療食は、高カロリーあるいは低カロリー、栄養素や食物繊維の補給、減塩食など項目的には変わりません。しかし、コロナ禍の3年間でメーカーさんも要望の少ない商品は廃版や休版にする流れがありました。当社が加盟している全国病院食卸売協同組合では、現場の栄養士さんから人手不足で調理員さんが足りないというお声を受けて、既製品で美味しく、柔らかく、塩分が食塩相当量100g当たり1g以下という肉団子などのほか何品か簡便調理ですぐできる商品を出しています。
 病院給食でも朝食の時は現場の調理さんの人手を確保しづらいので、盛り付けだけで調理できるという簡便調理の商品が出ています。当然その商品も川村先生からお話のあった学会分類に準じた分類コードを取得したユニバーサルデザインフードです。

■とろみ調整食品とやわらか食品おかず


(取材日:2023年6月15日)