特集7 脳神経外科領域を中心とした急性期病院の集大成を目指す
●函館新都市病院 青野 允 院長
函館市石川町331番地1 TEL 0138-46-1321 https://yushinkai.jp/hakodate/
石川町にある「函館新都市病院」は、昭和62年(1987年)に設立。脳神経外科を皮切りに、整形外科、循環器科、麻酔科、リハビリテーション科の開設など、医療環境の整備をすすめ、急性期から社会復帰にいたる一貫した治療を行なう医療体制をとっている、脳神経外科領域を専門とする病院である。
「メディカルページ函館平成28年度版」(平成17年12月1日発行)の冊子に掲載された記事です。※院名や役職、また内容についても取材時のまま表記しています。 |
最新鋭の医療機器を導入(道南圏で初導入)
厚生労働省の調べによると、日本人の死因で最も多いのが「がん」、次いで「心臓病」、「脳疾患」となっている。とくに北国、北海道に住む私たちは、塩っけのある食べ物を多く摂る傾向にあり、ある時突然に「くも膜下出血(脳動脈の出血による、頭蓋内出血のひとつ)」をおこし、強い痛みに襲われることがある。その場合、危険を知らせるシグナルはほとんどないという。
函館新都市病院は、脳神経外科領域では、道南圏でもトップクラスの医療体制を備えている。それぞれに経験値の高い専門医が多く在籍することはもちろんのこと、今年8月に、最新高性能のCT装置(多数の細いX線ビームを同時に人体に照射し、コンピュータ処理によって人体内部の詳細なデーターを得、画像化する装置)を導入したことがあげられるだろう。
この最新型CTは、従来、心臓の血管など画像化できなかった部位のスキャンを可能にし、全身のスキャンを施してもおよそ10秒もかからないという短時間で、人体の広範囲を精密に複数枚撮影できるというもの。また、投与される造影剤も少量で済むため、患者の身体的負担が少ないことも利点のひとつだという。実際にスキャン画像をみせていただいたが、想像していた以上に画像が細かく、素人目にみてもじつにわかりやすい処理がされている。こうした最新鋭の機器導入により、医師がより深い見識で治療についての判断が下せることはもちろんだが、「インフォームド・コンセント(患者が自分の病気と医療行為について、知りたいことを“知る権利”があり、治療方法を自分で決める“決定する権利”を持つことをいう)」が叫ばれている中、患者側もまた病院を決める際のひとつの目安となるにちがいない。
■最新高性能のCT装置
人体についての科学番組を映像で観ているような感じ! 最新鋭機器から得られるデータを処理する技師の技術力も充実している。
同病院では、急性期医療とともに予防医学という考えも掲げている。病気が起きてから治すための治療はもとより、病気の発症を未然に防ぐという考えだ。先のくも膜下出血の話ではないが、脳疾患には突発的なものもあるが、脳の中の血管をみたり、断面をみたりする「脳ドック」を定期的にすることで、大事には至らず未然に防ぐことも可能だからだ。
診療科目に歯科を新設
函館新都市病院は、脳神経外科を中心に、整形外科、循環器科、麻酔科、リハビリテーション科など、全部で8つの診療科を持つ。脳の病気は、大きく神経疾患と血管疾患があり、血管による疾患ということになると循環器科が必要となり、たとえば交通事故などの多発外傷によるものとなると整形外科も必要になってくる。専門ドクターや複数のセラピストが在籍しているリハビリテーション科の開設も、脳神経外科領域を核に据えたケア体 制の充実を図ったことにある。そして今年8月末には、同病院の診療科に歯科が新設された。なぜ、歯科が?と疑問に思ったが、取材をしていく中で、納得のいく説明をうかがった。
■高齢者の口腔ケアについて熱心に語る伊藤医師 |
「最近、高齢者と口腔ケアについての研究がさかんです。口の中には、目にはみえませんけど、さまざまなばい菌が存在します。たとえば高齢の患者さんに脳の手術をする際、意識がなくて呼吸がない場合は、気管の中に管を入れて人工呼吸をするんですが、口の中をきれいにしておかなければ、管を通って肺にもばい菌が感染してしまうんですよ。この時、免疫力が低下していた場合、肺炎になりかねません。また、食物の咀嚼や飲み込みが難しい状態の高齢者は、筋肉の老化や反射の低下などによって、誤嚥(読み:ごえん。口から咽頭・食道を通って胃へ運ばれるべき食べ物が誤って気管に入ってしまうこと)を起こしやすくなります。こうした際の予防に有効なのが口腔ケアなんです」。
1階の外来受付の奥に、各診療科への入り口とは少し異質のドアと待合スペースがある。ドアをあけると淡い色調の明るい診療室。すべてがフラットな設計で、歯科外来を受け付ける入口とは別に、入院患者がベッドのまま移動でき治療ができる別の出入り口も設けられている。歯科治療を担当する伊藤正明医師は「歯科治療のひとつである口腔ケアによって、そうした症状の発症を約4割程度減少させられることが最近の研究で報告されています。脳血管障害やその後遺症のある患者を抱える同病院だからこそ、歯科が併設される意義があるんです」と話す。
■歯科治療室
大掛かりな治療機器は必要最低限にしているという歯科クリニックの一般治療スペース。やわらかな色調で統一され、恐怖心も薄れる感じ(写真上)。ベッドやストレッチャーのままでも治療が可能な診療台(写真左)。
函館新都市病院は、脳神経外科を中心に、整形外科、循環器科、麻酔科、リハビリテーション科など、全部で8つの診療科を持つ。脳の病気は、大きく神経疾患と血管疾患があり、血管による疾患ということになると循環器科が必要となり、たとえば交通事故などの多発外傷によるものとなると整形外科も必要になってくる。専門ドクターや複数のセラピストが在籍しているリハビリテーション科の開設も、脳神経外科領域を核に据えたケア体 制の充実を図ったことにある。そして今年8月末には、同病院の診療科に歯科が新設された。なぜ、歯科が?と疑問に思ったが、取材をしていく中で、納得のいく説明をうかがった。
「最近、高齢者と口腔ケアについての研究がさかんです。口の中には、目にはみえませんけど、さまざまなばい菌が存在します。たとえば高齢の患者さんに脳の手術をする際、意識がなくて呼吸がない場合は、気管の中に管を入れて人工呼吸をするんですが、口の中をきれいにしておかなければ、管を通って肺にもばい菌が感染してしまうんですよ。この時、免疫力が低下していた場合、肺炎になりかねません。また、食物の咀嚼や飲み込みが難しい状態の高齢者は、筋肉の老化や反射の低下などによって、誤嚥(読み:ごえん。口から咽頭・食道を通って胃へ運ばれるべき食べ物が誤って気管に入ってしまうこと)を起こしやすくなります。こうした際の予防に有効なのが口腔ケアなんです」。
1階の外来受付の奥に、各診療科への入り口とは少し異質のドアと待合スペースがある。ドアをあけると淡い色調の明るい診療室。すべてがフラットな設計で、歯科外来を受け付ける入口とは別に、入院患者がベッドのまま移動でき治療ができる別の出入り口も設けられている。歯科治療を担当する伊藤正明医師は「歯科治療のひとつである口腔ケアによって、そうした症状の発症を約4割程度減少させられることが最近の研究で報告されています。脳血管障害やその後遺症のある患者を抱える同病院だからこそ、歯科が併設される意義があるんです」と話す。
医療の質のさらなる向上
今回紹介した最新鋭機器の導入や、医療体制のよりいっそうの充実を図り新設された新しい診療科などからも、同病院の地域医療への取組みの姿勢が伺えるが、最後に、今春4月に就任された同病院の青野允病院長からうかがったお話を追記したい。
青野病院長は、麻酔科の専門医として日本や海外での経験を積み、長年、教育の現場に従事されてこられたそうだ。「病院という組織は、いろいろな専門家がいる。そして、みんなそれぞれにライセンスを持っている。物事すべてに言えるが、大切なことは“基礎”を知ることだと思っている。
基礎がしっかりしていれば、あとの応用は、その人自身によるものだ」という考えを話された。そうした青野病院長は、さっそく院内の職員を募り、体についての基本的なことを学ぶ「寺子屋教室」を開いた。第一回目は「肺の機能」についてだったそうだ。「医学的な知識がなくても理解できるようにアコーディオンや提灯に例えての説明でとてもわかりやすくおもしろいものだった。今はちょうど一学期が終わったばかりです」と寺子屋教室に参加した同病院、企画運営室長である大堀秀実さんは話す。医師、看護師問わず、体のことを学ぶ、そうしたことからもまた身体機能についての興味 がわき、患者に対して向き合う際にも、より距離が縮まるように思える。
また、院内に在籍する250名すべての職員が、救急蘇生法ができるよう指導する取り組みも始めた。24時間救急診療体制「今話題のAED(自動体外式除細動器)もすでに院内に2台設置され、突発的な心停止にも万全の体制」をとっている同病院のこと、救急の際には即座の処置が不可欠であり、大切だということを身をもって示す姿勢のひとつであろう。今年度中には、すべての職員が免状を手にすることを目標としているという。さらには、患者さんの家族の方たち地域の人たちにも、その輪を広げていきたいと話してくれた。ハード面、ソフト面ともに、医療の質の向上を日々めざしていることがうかがえる函館新都市病院。地域の中に、こうした専門領域の分野を診てくれる医療機関があることのなんと心強いことかと改めて感じた取材であった。