函館五稜郭病院主催 第15回函館市民健康講座

専門医がゲノムにもとづく治療など最新のがん医療情報を講演

函館五稜郭病院(中田智明病院長)が8月24日、「函館市民健康講座」をホテル法華クラブ函館店で開催した。この催しは、全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるように厚生労働省が指定したがん診療連携拠点病院のひとつである函館五稜郭病院が市民にがんについての知識を深めてもらうため、各科の専門医が講演するもので今回が15回目。多数の市民が、治療法などがんについての最新情報に耳を傾けた。

「昨今の医療は、日進月歩が激しくて、本庶 佑先生が昨年、ノーベル賞医学生理学賞を受賞されたチェックポイントに関する薬がどんどん出ています。がんの専門医でも自分の専門分野以外の治療は、なかなか分からない。非常に専門化してきています」

座長の髙金副院長

開会のあいさつで、座長を務める函館五稜郭病院副院長の髙金典明先生はこう話し、会場に詰め掛けた市民に今回のテーマは、肺、中咽頭、泌尿器、乳腺の分野でのがんについての講演に加えて、遺伝子を調べることによる治療の5つのトピックスであると説明した。

最初に呼吸器内科の角利行先生が、肺がん診療について講演。がんによる死亡者数で男性では1番目、女性も2番目に多い肺がんだが、治療法の進歩により化学療法を受けている患者さんも増えており、五稜郭病院でも5年前は350人程度だったが、今は5倍の1500人の方が外来で化学療法を受けていると前置き。肺がんの検査から治療まで、外来診療の流れに沿って説明し、この10年で化学療法は大きく変化していることを紹介。2012年12月から肺がんにオプジーボが使えるようになり、さらに現在、肺がんでは免疫チェックポイント阻害薬が4剤使え、最近は5人に1人は肺がんが治ってしまうのではないかということもいわれていると治療法の進化を紹介した。

続いて耳鼻咽喉科の山﨑徳和先生が、頭頚部がんは耳鼻科領域のがんと話したあと、女性の5倍くらいの患者数がある中咽頭がんについて、発生の要因は喫煙と飲酒。それにヒトパピローマウイルス(HPV)が、その発生を高めることが分かっており、国内では、約半分がHPV感染。HPVのタイプは16型が90%を占めていると説明。中咽頭がんの治療では、がんの状態を改善することと同時に飲み込むこと、声が出るか、お話ができるかなど、どうやって機能を残すかが大事とし、予防としてHPVワクチンを使えば、ウイルス感染がなくなるかもしれないし、子宮頸がんもなくなるかもしれないと強調。肺がんや大腸がん、乳がんは検診はあるが、耳鼻科には検診がないので、何かおかしいなと思ったら、耳鼻科に来て欲しいと要望した。

左から角先生、山﨑先生、髙橋先生、川岸先生、池田先生

泌尿器科の髙橋敦先生は、腎臓がんの7~8割は、検診や内科の医師がエコーを使って偶然発見される偶発がんで、偶発がんは一般に小さながんなので適切な治療、具体的には手術をしっかりすると治ることを紹介。治療の上ではガイドラインで推奨グレードAの腎部分切除が、腎臓を全部取る根治的腎臓摘除術手術と同等の制がん性とともに、がんが治ってさらに機能が守られるということから強く推奨される。かつては、インターフェロンくらいしか使える薬がなかったため、腎がんは治らなかったが、2008年に分子標的薬が登場して現在は6剤。さらに2016年には免疫チェックポイントのニボルマブ、イピリムマブなど10種類くらいの薬があるという時代。免疫チェックポイント阻害剤を使用することで、腫瘍がゼロになってしまう症例もあり、今後さらに治療法の選択肢が増えていく予定と話した。

外科の川岸涼子先生は、乳がんについて講演。日本では女性の罹るがんの1位。毎年約7万人、11人に1人が乳がんに罹っており、年齢を経ても罹ることがあるので注意が必要として、手術、薬、放射線による乳がんの治療を紹介。さらに早期発見には、自己検診も大切として、チェックの仕方やポイントを説明。そして、マンモグラフィーやエコーなどの乳がん検診が大切で、早く発見し、治療を受けると予後は良い。何か気になるとき、検診でひっかかったとき、病院に来るのは恐いと思うが、長引かせていいことはないので。迷わずに、なるべく早めに病院を受診していただくことをお勧めしますと早期発見の大切さを強調した。

最後にがんゲノム医療センターの池田健五稜郭病院副院長が、ゲノムにもとづくがん治療と従来の治療との違いについて説明。従来の治療は、がんが発生した臓器をもとに治療法を決めていたが、ゲノムにもとづくがん治療は遺伝子異常に応じて薬を使う。さらに今までの薬は、正常な細胞にも効いてしまうものが主だったが、分子標的薬は、がん細胞にだけ効く特徴を持っている。多くのがんは遺伝子異常によって起こるが、1個や2個の遺伝子異常ではない。そのためがんの制御に一番大事な遺伝子ドライバーを見つけ、それをターゲットにする。五稜郭病院のがんゲノム外来は慶應義塾大学と連携して、100や200の遺伝子を調べるがん遺伝子パネル検査を行っている。この検査を受けることにより、10%~15%のがん患者さんは、治療にたどりつける。がんがなくなったり、生存期間が延びる可能性があり、状態をみてトライされることが良いと思うと結んだ。

最後に講演を聞いた市民からの質問に各講師の先生が回答して、第15回函館市民健康講座を閉幕した。

(取材日:2019年8月24日)

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