医療用ウィッグの本格展開から10年

パサージュの歩みとお客様への思い

株式会社Passage代表 久末 智光
美容室パサージュ 函館市石川町350番地21 TEL.0138‐46‐8023㈹ https://www.passage1987.net

美容室パサージュが抗がん剤治療の副作用による抜け毛で悩む人のために医療用ウィッグを手掛けて10年。今は日本人の半数が一生のうち一度はがんを経験する時代になったという。アピアランス※1やQOL※2が、まだ耳慣れなかった頃から、多数のお客様をサポートしてきたパサージュの歩みとお客様への思いを㈱Passage代表の久末智光氏に聞いた。


「メディカルページ函館・道南版2019年冬号」(令和元年11月12日発行)の冊子に掲載された記事です。

 

■久末智光代表

 パサージュが医療用ウィッグの取り扱いを開始したのは、2009年のこと。今年でちょうど10年になる。そもそもメーカーが医療用ウィッグの発売を開始したのが2009年のこと。もっともパサージュでは、それ以前から抗がん剤治療を受けるお客様の相談を受け、おしゃれ用のウィッグを提供していた。抗がん剤治療に合わせた医療用ウィッグを制作するメーカーもなく、おしゃれ用ウィッグで代用するしかなったためだ。
 日本における乳がんの罹患者数は増加を続け、それとともに抗がん剤治療などの副作用による脱毛症に悩む女性も増えていた。そうした背景から、メーカーが医療用ウィッグを開発、販売を始めたのも当然の流れで、2009年にパサージュが医療用ウィッグをいち早く手掛けたのも、抗がん剤治療による脱毛に悩むお客様の要望に応えるためだった。

よりよい医療用ウィッグを求め自社製品を開発

 しかし、最初に扱った医療用ウィッグは、久末先生には満足できないものだったという。「最初のものは、スタイルができあがったものでした。お客様に合わせて微調整が必要ですが、スタイルにあわせて髪にくせを付けているので、切りすぎると形が崩れてしまう。調整に限界もあり、新しい形はつくれないので悩みました。」(久末先生)
 そこで自社製品の医療用ウィッグを提供する現在の方向に切り替えたという。
市内の各医療機関にも医療用ウィッグを扱う美容室パサージュを認知してもらい、また利用者からの口コミにより新しい利用者も増加してきた。その一方で、医療用ウィッグを希望するお客様の場合、普通の美容サロンでは相談しにくいことから、そのための個室が不可欠。2010年、サロンと個室を持つ新店舗を石川町に開いた。

アピアランスにも着目

 また、2014年には田家町の店舗をアピアランスサロンとしてオープンした。現在は業務を休止しているが、久末先生の奥様である故久末結佳さんが、国立がん研究センター中央病院にアピアランス支援センターが計画されているのを聞き、当時、国内では認知度が低かったアピアランスに着目。医療用ウィッグだけでなく、補正下着や帽子など、治療による外見の変化をアピアランスの面から応援することで、QOLの質を高めてもらおうとの狙いだった。
 「まだまだアピアランスやQOLという言葉も浸透していませんでしたから。その頃に着目したのは凄いと思います」と久末先生は話す。この春にも札幌からアピアランスサロンの勉強のために訪ねてきた女性もいるという。

個室のある店舗がお客様の支持を集める

■個室のある石川町の美容室パサージュ

 医療用ウィッグを本格的に扱い始めて10年目を迎えた中、お客様からの声を久末先生に聞いてみると―
「個室があって、いろいろな経験からのアドバイスも差し上げられる。このサロン形態に感謝されることが多いですね」と話す。
㈱Passageで配布している「ケアガイド」には、化学療法前後のヘアケアについて説明しているページがある。
抗がん剤などの化学療法の開始前から、脱毛に備えてのウィッグや帽子を準備することから始まり、元の状態に戻るまでには約2年の期間が必要という説明だ。化学療法を受けると、髪質が変化し、毛質も細くなるのでボリュームも欠けてくる。伸びてくる髪の毛も形状が以前と違うので、その辺の悩みは大きい。
もともと通っていた美容室に久々に行くと、美容師さんは敏感なので違いに気付き、尋ねてくることもある。「実は治療を受けていて」と答えるのも、他にもお客さんがいるとオープンに話すことは苦痛だ。サロンだけの美容室を利用しにくいという心理が働くのは、そのためだ。そうした不安をフォローしてくれるのが、パサージュの美容室サロンとウィッグ個室を併用している形態だ。
「医療用ウィッグを買っていただくだけじゃなく、その後のアドバイスや相談にも応じています。精神的に気持ち良くなれる場所がないと、治療中は大変。それがアピアランスにもつながります。今までと同じ生活ができて、美容室に来ても嫌な思いをしない。治療中ということを分かっている人にやってもらえるから安心できるということもあります。元の髪が伸びてきている間でも、うちに来てカットやカラーリングができる。そういうサロン形態が喜ばれているのだと思います」と久末先生は話す。

■化学療法前後のヘアケアについて説明するパサージュの「ケアガイド」

お客様との信頼関係を大切に

 「うちは、メーカーさんのものと違い出来上がっているものではありません。こういうスタイルにつくりますと説明します。お客様に満足していただくという考え方ですから、お客様との信頼関係が大切だと思っています」と自社の医療用ウィッグについて話す久末先生。
また使用期間が長くメンテナンスが不可欠な医療用ウィッグは、どんなにいいウィッグでも伸びてきた髪をどうするのかなど、アフターフォローが欠かせない。パサージュではアドバイスも含めて細やかな対応に徹している。がんの種類によっては治療後の生存期間が大幅に延び、がんと付き合う時代の今、アピアランスによるQOLの向上をサポートするパサージュへの注目度は高まっている。

※1「外見」「容姿」「見かけ」の意味。※2人生の内容の質や社会的にみた生活の質の意味(Quality of Life)

(取材日:2019年10月12日)


 

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