一般社団法人函館家族信託支援協会がセミナー開催

芳屋昌治氏(一社)家族信託普及協会代表理事が家族でできる財産管理・資産継承の新手法を解説

財産管理や事業継承対応の手法として注目を集める「家族信託」。これの適切な普及を目指す一般社団法人函館家族信託支援協会が7月21日、家族信託の第一人者で一般社団法人家族信託普及協会代表理事の芳屋昌治氏を講師に招き函館初の「家族信託セミナー」を開催した。会場のフォーポイントバイシェラトン函館には100名の市民が詰めかけ、芳屋氏の講演に聞きいった。

芳屋昌治氏

セミナーは最初に(一社)函館家族信託支援協会のスタッフが紹介された後、同協会の西谷裕幸理事長があいさつに立ち、「家族信託は財産承継や相続対策だけではなく、高齢者社会における認知症対策、障害者支援対策、不動産の共有問題など、家族で話し合って、家族で解決できる新しい財産管理の手法になっています」と家族信託について話した。

続いて講演に立った芳屋昌治氏は、日本人の平均寿命が延びる一方で、認知症高齢者が増加していることを指摘。その上で親が認知症になった場合、銀行口座などが凍結されて、配偶者や子供でも預金を引き出すことができなくなること。また、親が認知症になった場合、土地の売買などの契約行為が被相続人自身にできなくなることなど、認知症等になると資産の管理や処分は「成年後見制度」を使うしかなかったが、同制度には限界があることを説明。

そうした中、2007年9月に信託法が84年ぶりに改正され、民事信託においては誰(会社や法人)でも受託者(財産を預かる者)になることができるようになり、自分の財産を家族に託することができる、いわゆる「家族信託」が可能になった。

(一社)函館家族信託支援協会スタッフの紹介

委任契約や成年後見制度、遺言は手続きが煩雑だが、家族信託では、すべての機能を生前、あるいは認知症を発症する前の健康な時から、相続発生後の財産管理まで一貫してひとつの信託契約で実現すること。さらに民法では不可能だった2次相続以降の財産特定継承が可能であると説明した。

西谷裕幸理事長

芳屋氏は、一般の場合と家族信託を組成した場合の違いについて、身近な事例を上げて解説した。

その事例のひとつとして、一人で自宅に住んでいる母親が高齢者施設へ移住した一般の場合をあげ、「その時、お母さんが一人で住んでいた自宅をどうしますか。アンケートを取ったら8割の人が“しばらくこのままにしておく”としています。施設と相性が悪かったら戻るところを確保しておきたい。また家の中には荷物も多く、その処理も大変なので、しばらくそのままにしておくというのがほとんどの人の結論です」と一般例を説明。

「しかし、母親が認知症を発症し、自宅にも帰れない、財産のことも分からなくなったという時、別居している息子は、自宅をどうするでしょうか。持っているだけで固定資産税がかかるし、火事や泥棒も心配。母親も戻ってくる予定もないし、母親の生活費も必要だから、売った方がいいと思い不動産屋に行きます。すると不動産屋は、“残念ながら売れません。不動産売買には必ず本人確認が必要で、お母さんがうんと言ってくれなければ売れません。貸すことも出来ません”といいます。では自宅をどうするのかと聞くと、“このままです”という答えです。認知症を発症しても10年くらいは普通に生きていますから10年間、この自宅は何も触ることができない。こんなケースがみなさんの周りや下手をしたら、みなさんご自身にも起こり得るんじゃないでしょうか」

このように認知症を発症し意識低下した母親の自宅は、息子といえども母親が死去するまで、その処理はできないという一般の場合について説明した芳屋氏は、家族信託を組成した場合の違いについて――
「施設に入る前、お母さんはまだしっかりしていますから、お母さんを委託者、息子を受託者として信託契約を結びます。預ける財産はお母さんの自宅。自宅を使う権利は従来通りお母さんにありますから施設に入っても、お母さんは自宅を好きなように使うことができます」さらに母親が認知症を発症し、意思判断が出来なくなったら時でも、受託者である息子の手続きひとつで売ったり、貸したり、建て替えたりすることが可能と次のように説明する。
「受託者の息子の権限の中に、人に貸したり、処分や建て直しをすることができると書いてあるからです。つまり、息子の意思判断でお母さんの自宅を処分・活用することができるのです。一般の場合と家族信託を結んだ場合では、家族にかける負担が物凄く違うということをご理解いただけますでしょうか」

一方で受託者の暴走と受益者の保護、金融機関の対応、税務・法務での事例の少なさ、分かりやすく正しく説明する人や実務を行う専門家が少ないなど、家族信託の問題と課題についてふれ、元気なうちに家族・親子で取り組むこと、子どもを信じて託してみることが、相続・家族信託成功のキーワード。そして信頼できるパートナーとして家族と専門家が必要と話した。

「家族信託という制度が使えるのなら使えばいいし、他の制度がいいのなら他の制度でもいいのです。しかし、お客さまに家族信託という選択肢を与えられないというのはプロとしてあってはいけないと常に啓蒙しています」

講演後のインタビューで芳屋氏は相続や資産継承などの質問を受ける立場の職種の人たちが家族信託を知らないということはあってはならないと、こう話した後、「ぜひ地元に根付いて、信頼されて、家族信託を多くの方に知っていただいて、利用していただけるような団体になってほしいと思っています」と(一社)函館家族信託支援協会への期待を語った。

(取材日:平成29年7月21日)

特集:家族のための財産管理『家族信託』①