離職者防止と労働力減少に対応
介護の現場を支援するロボット導入
●株式会社メディカルシャトー
函館本社:函館市美原2丁目50番2号 TEL 0138-34-3231
https://www.shirayuri.gr.jp/
労働人口の減少は今後、さらに深刻な状況にある。介護の職場も慢性的な職員不足に加えて、利用者の急増から十分なサービスの提供に苦慮しているのが実態だ。そうした中でいち早くロボットの導入により、この窮状を打破する取り組みを行っているのが白ゆりグループ株式会社メディカルシャトー(函館本社・函館市美原2丁目、佐藤文彦代表)だ。同グループは『ライフプレステージ白ゆり』ブランドの高齢者介護複合型施設を札幌、函館、北斗の3市に9施設運営。3年前の平成26年11月、介護支援用ロボットHALを『ライフプレステージ白ゆり新さっぽろ』に道内初導入した。現在は札幌、函館の運営施設で計4台を活用、介護サービスにおける先進的な取り組みが注目を集めている。 「メディカルページ函館・道南版 2017年夏号」(平成29年7月7日発行)の冊子に掲載された記事です。内容は掲載時のまま表記しています。 |
厚生労働省では介護施設にロボットの導入を促すため、2018年度の介護報酬改定で、ロボットを導入して職員の負担を軽くする事業所に対して、介護報酬を加算することを検討している。また、北海道も道内の福祉施設向けに介護ロボット導入を促すことで介護業界の労働環境改善を目指すための支援に乗り出している。
こうした国や自治体の動きに先駆けて介護支援ロボットを導入したのが『白ゆりグループ』だ。
ロボット開発者・山海教授の考えに共感
『白ゆりグループ』が活用しているロボットは、筑波大学発のベンチャー企業CYBERDYNE(サイバーダイン)株式会社(茨城県つくば市学園南2丁目)が手掛けるHALの介護支援用(腰)タイプ(以下HAL)。導入のきっかけは、メディカルシャトーの佐藤文彦代表が聞いたHALの開発者、筑波大学システム情報工学研究科教授の山海嘉之氏の講演だった。
「山海教授が、これからは重介護を強要するようなサービスの現場をつくらせない、重介護ゼロの世界を考えていかなければならないと話されたことに共感し、筑波の研究所にお邪魔して、実際に装着させていただいたのが始まりです」(佐藤代表)。それが3年前のことで、その年の11月にHALを導入した。
山海教授がいう『重介護を強要するようなサービスの現場』の一例に、介護職員の職業病ともいわれる腰痛があげられる。無理な姿勢や負荷のかかる介護の仕事により介護職のスタッフが腰痛を発症するケースは後を絶ない。熟練の介護スタッフの中には、「腰痛になって一人前」というようなイメージすらあるほどだ。予備軍を含めれば8割から9割の介護職が腰痛を抱えており、介護の仕事は続けたいのに、腰痛で続けられないと辞職するスタッフすらいる。
さらに佐藤代表は、「介護のスタッフ数とスタッフのサービス力、今後もこれらを確保できるかどうかが、私ども介護のお仕事をさせていただいている会社の生命線です。そのためには何かインパクトのある手立てを打たなければならない。もちろん、外国人技能実習生の受け入れもありますが、介護の仕事は続けたいのに、腰痛で続けられない。そういう現場のスタッフの悩みから無くしたい」とHAL導入について話す。
HALの導入は、『白ゆりグループ』で働くスタッフが長く働ける環境づくりが目的のひとつ。さらに職員を大切にしている企業をアピールすることで、職員採用にもつなげ、深刻化する労働力不足に対応するという狙いもある。
介護スタッフの職業病「腰痛」を予防するロボットHAL
なぜ介護の仕事が腰痛を発症するのか。排泄や食事、入浴などの介助が、ほとんど腰を使う作業だからだ。このため『白ゆりグループ』が導入、活用しているHALは、腰痛予防のためのロボットだ。
腰痛の原因は、L5/S1(Lは腰椎、Sは仙骨。腰椎の5番目とセン骨の間がL5/S1)に負荷がかかるからで、HALは、この負荷を軽減するために開発された。腰に装着して中腰作業を楽にさせるのがHALの基本性能だ。また、HALの動作は装着している人が、腰に力を入れて動かすと考える、その脳の微弱な電気信号を受けて作動するため装着している人との動きの間にタイムロスがない。
HALを装着して60キログラムの物を持ち上げると3分の1程度、20キログラムの物を持ちあげる感覚だという。しかし、HALの真価は重いものを持ち上げることではなく、負荷のかかる動作を長時間、何度も出来ることだ。
「ベッドメイクもおむつ交換も中腰の作業で、中腰を保ち続けるのが大変なんです。HALは、そうした作業にも使っています。意外といいのが茶碗洗いです。中腰で利用者40人分の茶碗を洗う作業が楽になりました」
HALを最初に導入した『ライフプレステージ白ゆり新さっぽろ』の池見仁康統括施設長はこう話す。
HALの機能要求に現場の声を反映
佐藤代表が「これからも、手の温もりを添えたサービスは介護の現場に必要です」と話すようにロボットといっても装着型だから、介助を受ける人には介護職員の手の温もりなどが、そのまま伝わる。
「HALを装着した介助を受けられると安定していいねという方もいます。ベッドから起こされる時にHALに掴まり、それから起こされると頼りになるというお声も聞きます。HALの導入で安心感が増したと話す入居者のご家族の方もいらっしゃいます」(池見統括施設長)。
㈱メディカルシャトーは、『白ゆりグループ』の介護施設でのHALの活用だけにとどまらず、HALの北海道地区代理店にもなっている。
これはHALの普及役としての取組みはもちろん、サイバーダイン社に対するユーザーとしての機能要求を伝える役割も担っている。
すでに生活防水機能の追加や使い捨て電極シールから電極付きベルトへの変更など、機能要求から改善された新型のHALが、『白ゆりグループ』で活用されている。HALは、今後さらにイノベーションが進む製品だ。
「新しい技術に、早く触れることが大事」と話す佐藤代表は、さらに続けて「HALというロボットに触れることにより、今後現場に必要になってくるロボットやAIはどのようなものになってくるのか、白ゆりのスタッフ全員が考えるきっかけになればと考えています」との抱負を語っている。
『白ゆりグループ』では、現在使っているスタッフのサポート用のHALだけでなく、現場で使えるロボットは必要に応じて導入していく計画だ。
ロボットの導入は、介護の職場だけでなく、労働人口の減少という不可避の課題に対する答えのひとつだ。
(取材日:平成29年5月24日)
株式会社メディカルシャトー
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