第27回 これからの医療と鍼灸治療 統合医療のすすめ

toyo_doc「東洋医学的 健康針断」では、益井東洋治療院の益井院長が、現代西洋医学とは、少し視点を変えて診た「体や健康」についてのお話をしていきます。お気軽にお読みください。
<東洋医学的 健康針断>

コラム寄稿:益井 基 院長
(益井東洋治療院)


皆さん、こんにちは!
今年の春はとても早く、桜前線もあっという間に通り過ぎていきましたね。
そんな陽気の中、いかがお過ごしでしたか?

気持ちの良いお天気の中、お花見やお散歩ができるような幸せな老後を迎えたいものですが、「健康寿命」という言葉を知っていますか?健康寿命とは、主に老年期の日常的な介護を必要としないで、自立した日常生活を普通に送れる生存期間のことを言うのです。
日本では平均寿命は延びていますが、肝心の健康寿命との差は男性で9・2年、女性で12・7年にも達しているのです。つまり平均して10年位は、体に不自由を感じたり、場合によっては寝たきりになったりで余生を過ごし、残された貴重な人生の時間の質を格段に落としています。

これは世界の主要国の中で最も長い「寝たきり期間」なのです。

ご存知のように医療費は毎年毎年膨れ上がり、健康保険や介護保険などの皆保険制度自体が限界を迎えてきています。

医療の第一選択肢は「近代西洋医学」です。
当然、私も病気になったら医療機関を受診します。
しかしながら病気を科学的に分析し過ぎた結果、「人間全体ではなく、病気の部分だけを診て治療する」まさに「木を見て森を見ず」という側面があるのは皆様もお気付きかもしれません。これでは「真の人としての幸せ」や「生命の尊厳」さえも守ることができないことも起きてしまいます。

鍼灸師である私には、命に係わる様な医療に関して語ることはできませんが、それ以前の状態での「痛み」や「苦痛」に対しても、医療機関を受診するスタンスを考え直さなければいけない時期に来ていると思います。

例えば「腰痛症」

一般的に多くの方々が経験のある病気ですが、症状を感じ腰が辛くなると整形外科を受診します。
その中でレントゲンや各種検査をしますがどこにも異常がなく、「悪いところはないので様子を見て下さい。」と言われる腰痛症は、なんと全体の80%以上もあるのです。原因がなければ、整形外科では積極的な治療方法はありません。
一般的には痛み止めのお薬を処方されて飲んで、病院で物理療法を受けながら様子を見るのが定番でしょう。しかしなかなか症状は改善せず、また違う病院にかかるドクターショッピングも多いように感じます。

当然のことながら医療費はどんどんかさんでいきます。
このような医療費の不経済な使い方はいかがなものでしょうか?

じつは国も高額な医療や薬漬けの医療を是正すべき確固たる考えを持っているようであります。

それは「予防医学の推進」です。

この基本的な考えを一言でいえば「病気になって治療が必要な状態にならないように一人一人が気をつけましょう」ということであります。一昔前は「養生」という言葉があり、「どうか養生してくださいね。」と会話の中に良く出てきたものです。

辞書を引くと養生とは「生活に留意して健康の増進を図ること」とあります。
まさにこの養生の気持ちが現代社会では薄れてきているのではないでしょうか。

小学生に「風邪気味になった時、どうしますか?」という質問をすると、帰ってきた大半の答えは「病院に行ってお薬をもらう」なんです。意識として「あったかくして安静にする」といった養生的な考えは、皆無に等しいのが現実であります。これからの将来は「医療機関に行って治してもらう」のではなく「病気にならないように日々、自分で養生をする」という考え方、生き方が大変重要になってくると思います。

そこで鍼灸治療ですが、もともと鍼灸の根本は「人の持つ治癒能力を最大限に生かし病気の状態から回復させる」というのが治療原則であります。

人間全体を見て悪くなっているところを判断し、そこを改善していく。
それにより自己修復機能を活性化させ、病を遠ざける。
鍼灸師はこのような手法を得意としておりますし、これぞ鍼灸医学なのであります。


鍼灸治療と現代医学のコラボレーション

「統合医療」という言葉を聞いたことがありますか?

それは二つの療法を統合することによって両者の特性を最大限に活かし、一人ひとりの患者に最も適切な『オーダーメイド医療』を提供しようとするものであります。救命救急や外科手術などの臨床現場では近代西洋医学でしかなしえない治療が施されます。しかし一方で、慢性疾患の治療や予後の療養、さらには近代西洋医学では治療不可能と言われた症状に対して、伝統医学や相補・代替医療の有効性が数多く報告されています。

非常に優秀な近代西洋医学でも万能ではないということです。

不得意な分野を鍼灸治療や漢方医学などで補完していくという「統合医療」がこれからの医療を支える日が来るのではないかと期待しています。

統合医療の目指す方向性

1 QOL(生活の質)の向上を目指し、患者一人ひとりに焦点をあてた患者中心の医療

2 近代西洋医学及び伝統医学や相補・代替医療従事者による共同医療(真のチーム医療)

3 身体、精神のみならず、人間を包括的に診る全人的な医療

4 治療だけでなく、疾病の予防や健康増進に寄与する医療

5 生まれてから死ぬまで一生をケアする包括的な医療

6「尊厳ある死(Death with Dignity)」と、患者だけでなく残された遺族も満足できる「良質な最期のとき(QOD:Quality of Dying and Death)」を迎えるための医療

(以上 日本統合医療学会より引用)

また近代西洋医学は病気になってからの医療です。
予防医学としては東洋医学的な発想が効果的であります。

つまり病気にならないようにするための予防的な意識を一人一人が持ち、西洋医学的にはっきりとした原因が分からないものに関しては、鍼灸治療などの補完・代替治療も医療の選択肢として考える。これから迎える超高齢化社会の中で、自分の「健康」、また「医療」をどのように考えていくのかは、自分の老後を幸せに暮らすために大変重要なことであります。
鍼灸治療が今後、皆さんの医療の一部として浸透すること祈り、そしてそうなるべく我々、施術者の実力を上げていかなくてはと日々、考えております。

西洋医学だけでは解決できなかったお悩みをお持ちの方は、是非、ご相談ください。