第22回 「姿勢の変化にみる体のシグナルと歩行の効果」

toyo_doc「東洋医学的 健康針断」では、年4回、益井東洋治療院の益井院長が、現代西洋医学とは、少し視点を変えて診た「体や健康」についてのお話をしていきます。お気軽にお読みください。
<東洋医学的 健康針断>

コラム寄稿:益井 基 院長
(益井東洋治療院)


皆さんこんにちは。
ぽかぽかした春の陽気にもあと僅かなのかなといった今日この頃ですね。
さて今回は、姿勢と歩行に関してのお話をしたいと思います。


「人」の最大の特徴は二足歩行をするということです。
重力に対し二本足で立ち、動き回り生活する。このような生活環境において身体の機能が正常に働くように構成され、完成されているのです。姿勢が乱れたり、体の動きがおかしくなったりすると、そこに何らかの異常が発現し、病気が発症してくるのです。
つまり「正しい姿勢」すなわち「人の骨格構造と重力線の位置関係」が健康には大変重要な要素なのであります。ここで姿勢の悪さによって、連鎖して全身に影響する関節の動きを簡単に説明いたします。


◎背すじを丸くして上体が前傾気味になると、股関節の伸び・曲げの範囲が小さくなり、足が地面につくときには、膝が曲がったままの状態になります。足を蹴りだす際には、足首の曲がりも小さくなり、蹴る力も弱くなります。
このようになると骨盤が前傾して、腰から骨盤にかけての角度が急になり、無理な力が腰椎に加わって、腰痛の大きな原因となるのです。
また、膝も曲がったままの状態で地面に着地するので、膝関節内のクッションである軟骨で力を和らげることが出来なくなり、広い面積で力を分散させなければいけないものを、一点に負荷を集中させてしまうことになってしまいます。その結果、関節や周囲の筋肉に大きな負担がかかり、変形性膝関節症の原因ともなるのです。
つまり患者さんの姿勢や身体の動きを良く診ることによって、「どの部位がどのように無理がかかって、痛みを発症させているか」が解りやすくなってきます。その視診の標準の軸となるのが、重力線なのであります。
レントゲンや各種検査などで、何の異常が無くても、身体に症状がある場合は、ほとんどがこの重力線の通過する位置に問題があります。姿勢の悪化により、過度に負担がかかっている関節・筋肉を見つけ出して、正しい重心位置になるように、関節の位置を矯正したり、筋肉の緊張のバランスを正していきます。

鍼灸治療に使われる「ツボ」は、いまだ科学的に証明されていませんが、現在のところ有力な考え方とされているのが、人の生活様式との関係です。
「人が二足歩行することで、特定の筋肉にひずみが生まれ、疲労や組織損傷しやすい状態になっており、そこには炎症も生じやすい。それがツボであると考えられる。」(明治鍼灸大学 川喜田健司教授)とした考えがあります。そうなると「ツボ」も重力下における姿勢の変化によって、反応が現れるわけであります。
構造的な力学を考慮し、「ツボ」の反応を確かめながら、鍼灸治療をすることにより、整形外科領域の治療に非常に効果的となります。
鍼灸治療は単純な消炎・鎮痛だけではなく、痛みの根本的な治療となりうるのです。しかし良い姿勢を維持させるには、骨格を重力や生活上の負担がかかっても安定させておける筋力が絶対的に必要であります。
これは患者さん自身が努力しなければいけないところですが、姿勢維持に絶対必要な筋力をつけるのに必要な運動が「歩行」なのであります。


「歩行」によるメリットはたくさんあります。

①肩こり・腰痛に効果
身体を起立させておくのに必要な筋肉である、脊柱起立筋や骨盤内筋を鍛える事ができる為、肩こり・腰痛の予防・改善に非常に効果的です。他の運動では、これらの筋肉を刺激する事が難しいのですが、ウォーキングやランニングはバランス良く鍛える事ができるのです。さらに左右対称に腕を大きく振り、背骨を軸に骨盤をねじる運動になる為、腰を中心とした骨格のアライメント(軸)を矯正することにもなります。

②ダイエットに効果
ウォーキングやランニングでのエネルギー消費量は移動した距離に比例します。
距離1km、体重1kgあたりのエネルギー消費量は、ウォーキングで約0.5キロカロリー、ランニングで約1キロカロリーです。たとえば体重60kgの人が2kmの距離をウォーキングすると、60(kg)×2(km)×0・5(kcal)=60キロカロリーの消費になります。
ランニングでは、60(kg)×2(km)×1(kcal)=120キロカロリーとなるのです。
同じ距離であれば、全力で走っても、歩くよりも遅いくらいのスピードで走っても、消費するエネルギーは変わらないということです。つまり「きつく・苦しい」程のペースで走る必要は全く無いのです。
ダイエットが目的であれば、ウォーキングよりも2倍のカロリーを消費するランニングをして、スピード(運動強度)を上げずに、距離を伸ばすことにより、エネルギー消費量は増え、体内の余分な脂肪は燃焼されて、スリムな身体に近づけるでしょう。

③生活習慣病の予防に効果
ウォーキングやランニングを日常的に生活に取り入れている人達は、そうでない人たちに比べて、高血圧、糖尿病、高脂血症、脳卒中さらに心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患になりにくいという結果が、国内外でいくつも報告されています。
低強度で長時間行う有酸素運動を行うことにより、脂肪や糖はエネルギーとなって燃焼し、栄養と酸素は身体の隅々まで届けられ、心臓や肺の機能は活発になっていきます。

④骨粗しょう症に効果
ウォーキングやランニングでは、体幹や脚の筋肉が良く使われる上に、骨に荷重が加わり刺激されるので、骨の形成が促進され、骨粗しょう症の予防・改善が見込まれます。また屋外で太陽の光を浴びることにより、体内でビタミンDの合成が促進され、カルシュウムの吸収力を高めます。
以上のような多くのメリットがあり、自分にあった運動強度を設定できるので、お年寄りでも安全に取り組むことができ、気軽にどこででも始めることができます。
自分ができる範囲の距離・スピードから、気持ち良くスタートしてください。


二足歩行をしている人間は歩くことにより、正常な機能、つまり「健康」を維持できるように作られているわけなのです。
これから外で歩くことが快適になる季節になってきます。積極的に歩いて、身も心も健康になってください。
歩くことがつらい症状をお持ちの方は、まず鍼灸治療をお試し下さい!