「高齢者の転倒と骨折」について

 高齢者の骨折は、屋外・屋内にかかわらず、ほとんどの場合、何らかの「転倒」により発生しています。

 屋外では歩行中にバランスを失って「転倒」となる事が最も多いと考えられます。「転倒」の原因として路面状況などの外的条件もありますが、着用する靴の選択も重要となります。適切な大きさの滑りづらい靴を選び、場合によっては滑り止めの補助バンドを使用する事も一法と思います。

 歩行中の荷物の持ち方にも注意が必要です。片手で重い物を持つとバランスをとるために体幹は反対側に傾き、ちょっとしたきっかけで「転倒」となってしまいます。

 両手で持つのはさらに危険で、「転倒」の際に防御姿勢がとれなくなり、頭部外傷などの危険性も増します。可能であれば背部に背負うリュックサックなどが、より安全かと思います。

 屋内での「転倒」の原因は、もっと複雑です。まず本人の体幹筋力、下肢筋力、平衡機能などに問題があり「転倒予備軍」となっていることが考えられます。

 加えて高齢者は多くの薬を服用しており、その副作用のために「ふらつき」「めまい」などの症状が悪化している場合があります。

 屋内の転倒場所としては、浴室・トイレ・階段などが多く、特に注意が必要です。浴室内は石鹸などで滑りやすいという事もありますが、入浴中に急激な血圧低下を起こす事があり、「ヒートショック」と言われています。

 これは抹消血管が拡張し、急速な血圧降下が起きる事によります。最悪の場合「転倒」だけでなく、浴槽内での溺死という悲惨な結果をもたらす事もあります。

 次に「転倒」の予防について説明したいと思います。まず立位と歩行が安定しているという事が大前提です。

■「片脚起立」と「スクワット」が効果的

 効果的なトレーニングは2つあります。「片脚起立」と「スクワット」です。「片脚起立」は毎日、片脚1分ずつを3回行って下さい。ふらつく場合は手で支持してかまいません。「スクワット」は体力に応じて回数を決めて下さい。筋力に自信のある人は片脚スクワットが、さらに効果的です。

 最後に転倒の危険性を客観的に調べる血液検査を2つ紹介します。

 1つは25(HO)ビタミンDという活性型ビタミンDです。このビタミンDは骨新生に必要なだけではなく、筋肉の活動、神経の伝達機能などにも必要なビタミンとされています。これが基準値以下の場合には明らかに転倒リスクが増大するという報告があります。当院の検査では70歳以上の骨粗鬆症の患者さんでは80%以上が基準値以下でした。

 もう1つの検査は「アルブミン」というタンパク質です。これが低値になると筋肉の活動に悪影響が出てきます。

 タンパク質を含むバランスの良い食事と、適度の運動を継続し、「転倒」「骨折」のない元気な生活をしていきたいものです。

 医療法人社団 八木原整形外科クリニック理事長・院長 八木原一英先生 


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