函館五稜郭病院主催 第13回 函館市民健康講座

肝がんや子宮がん、乳がんの治療や口腔ケアの大切さ、患者との接し方について専門医が講演

函館五稜郭病院(中田智明病院長)が平成29年10月7日、「函館市民健康講座」を函館中央図書館で開催した。「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受けている同病院の医師が、最新のがんの治療法や予防などについて講演する、この健康講座は今回で13回目。がん検診の必要性や家族などが、がんに罹った時の対応の仕方などの講演の後、会場につめかけた市民からの質問に答えた。

髙金副院長

健康講座は函館五稜郭病院副院長の髙金明典先生の開催挨拶に続いて、同病院消化器内科主任医長の笠原薫先生が「肝癌の診断と治療」をテーマに講演した。笠原先生は、最初に肝臓の働きから解説。肝細胞がんの原因の8割はウィルス性肝炎によるものだが、B型、C型のウィルス性肝炎は治療法が劇的に変わり、薬により9割以上の確率でウィルスの排除が可能になったこと。また、肝がんの診断には、血液検査と画像診断、腫瘍生検があるとして、血液検査の腫瘍マーカー、画像診断の超音波検査、腹部のCT、MRI、血管造影、さらに各種画像診断では診断がつかなかった場合に行うことがある腫瘍生検について説明。肝がんの治療には、肝切除や肝移植などの外科的治療のほか、体外から針を刺して行う穿刺(せんし)局所療法としての経皮的エタノール注入、マイクロ波凝固、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)の各療法のほか、カテーテルを通じて造影剤を投与した後、塞栓(そくせん)物質を注入する肝動脈化学塞栓。肝臓以外の臓器にがんが転移し、局所療法や手術療法の対象とならない患者には経口薬による全身化学療法などを説明した。脂肪肝の段階で食生活や生活習慣の改善をはかりNASH(非アルコール性脂肪肝炎)への進展を予防することが重要であり、それには減量が効果的と話した。

続いて歯科口腔外科長の宮手浩樹先生が「がん治療における歯科口腔外科の役割」として、口腔がんの治療とがん治療時における口腔ケアの大切さを話した。この中で宮手先生は、口腔がんの診査・診断は視診と触診が基本だが、顕微鏡による生検、また、骨を見るのにはCT、骨のないところではMRI、また遠隔部への転移を見るにはPET/CTなど画像検査でも、それぞれ有効なものがあると解説。唾液1mlには10億個、歯垢1㎎には1億個の細菌がおり、それらの細菌が気管に入りこむ誤嚥(ごえん)性肺炎は重大な合併症。口腔ケアの大切さを本人が理解すること。がんの治療や手術前には、歯ブラシ法や歯石除去、グラグラする歯やむし歯の抜歯、義歯の調整などをかかりつけの歯科医師に相談するようにとアドバイス。口腔ケアはがん治療の需要な一部と強調した。

左から、笠原先生 宮手先生 福中先生 仙石先生 大内先生

また、「子宮がん検診をうけましょう!」を演題に産婦人科科長の福中規功先生は、子宮がんには子宮頚がんと子宮体がんがあり、この二つのがんと卵巣がんが婦人科の3大がんと話した後、それぞれの特徴があるが、いずれも症状が出ていない段階で発見することが大事。子宮頚がんの原因はヒトパピローマウィルスの感染によるもので、日本では毎年1万5000人が子宮頚がんと診断され、3,500人の命が奪われていると話しながら、検診とワクチンで予防が可能であり、初期でみつかれば100%治せるとも説明。しかし、実際の検診受診率は20%。最近は子宮頚がんが20代から30代の女性に急増している一方で、この世代の女性の検診受診率が特に低いと警告した。また、子宮体がんは、かつて子宮がん全体に占める割合は10%だったが、近年は50%まで急増している。なかでも50代から70代の閉経期から閉経後の女性患者が増えているとし、これも初期には治る可能性が高いと説明した。子宮がん検診のメリットと実際の検診について話した後、福中規功先生は、「検診を毎年受けていれば子宮がんで亡くなる女性はいなくなる」と講演を結んだ。

緩和ケア科科長の仙石早苗先生は「がん患者さんの抱える苦悩~孤独について考えてみよう~」をテーマに、今回の講演会会場が函館中央図書館というで、本を紹介しながら話をしたいと前置き。平成19年4月に施行された『がん対策基本法 基本理念』では、がん患者の置かれている状況に応じ、本人の意向を十分に尊重してがんの治療方法が選択されるよう、がん医療を提供する体制の整備がなされること」とあるが、本人の意向を尊重するためには本人に正しく病状が伝えられていることが前提。吉村昭氏が肺がんで亡くなった弟の1年ほどの闘病記を作品とした『冷たい夏、熱い夏』を例に、仙石先生は隠し事が無ければ孤独は癒されるのかと問題を提起し、「患者がどれくらいまで知りたいのか意思を確認しておくことが必要」とアドバイスした。また、難病で夭逝(ようせい)した流通ジャーナリスト金子哲雄氏の著作『僕の死に方』と夫人の金子雅子氏の著作『妻の生き方』を例にあげ、患者は病気になっても、社会に対して、これまでと変わらぬ役割を果たしているという実感が孤独の痛みを癒す。安直な言葉の励ましはしない方がよいと話しながら、読書により多くの人たちの生きざまに触れることで自らの人生を豊かにすることが、きっと孤独をいやしてくれると語った。

最後に放射線治療科科長の大内敦先生が、「乳房温存と放射線治療」を演題に全乳房照射を中心に講演。乳がんの手術法で、乳房温存療法の割合は2000年頃から1位となっており、2005年次に54.4%を占めた割合が2007年次には59.3%を占めていると解説。温存療法は温存手術と術後放射斜線治療によるが、目的は乳房内の再発予防であり、再発を予防すれば乳房切除を含む再手術を受けなくても済む。さらに乳房が温存できるだけでなく、再発に引き続く遠隔転移が予防でき、結果として生命が守られると話し、照射により再発率は約3分の1に減少すると説明した。大内先生はまた、放射線治療の実際についても説明しながら、早期発見で温存療法が可能となり、命とお乳を救える。検診を受けて早期に発見してもらいましょうと呼び掛けた。
講演は最後に髙金副院長の進行により、参加者から寄せられた質問に各先生が回答して閉会した。


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