糖尿病患者のための「低糖質スイーツ」

ニーズにあったお菓子の普及を応援

株式会社アキヤマ 業務用食材・資材・機器専門商社
北斗市東前3-41 TEL 0138-77-7491
http://www.akiyama-fs.co.jp/ (オンラインショッピング)

函館洋菓子協会と函館スイーツ推進協議会の事務局を務める、業務用食材の専門商社㈱アキヤマ。本誌ではこれまで、同社が扱う介護用食品や治療用食品食などをたびたび紹介してきたが、今回新たに「低糖質スイーツ」の普及に乗り出すという。そこで、函館洋菓子協会の会長であり、函館短期大学付設調理製菓専門学校でも製菓技術研究室長として教鞭をとる小川一彦さんに低糖質スイーツとはどんなものかを聞いてみた。(右写真:函館短期大学付設調理製菓専門学校)


(メディカルページ函館・道南版 2017年夏号に掲載された記事です)

「低糖質スイーツ」とはあまり耳慣れない言葉ですが、どんなお菓子のことですか?

■小川一彦氏

高低糖質スイーツは、糖分の摂取を控えなければならない糖尿病の方のために考え出されたお菓子のことです。「低カロリー」ではなく、あくまでも糖質を減らすことが目的なので、バターや生クリームなどの乳脂肪分は使用できます。普通のお菓子との違いはまず、サトウキビやテンサイから作った砂糖を基本的に使用せず、代わりに甘味料を使います。市販されている甘味料の商品名で言うと、「パルスイート」「シュガーカット」「ラカント」などですね。

それだけで低糖質スイーツになるなら簡単そうですね。

実は、砂糖を甘味料に替えただけでは低糖質スイーツになりません。洋菓子全般に使われている小麦粉がでんぷん質だということは皆さんご存じだと思いますが、でんぷん質とは糖分なんですね。具体的な数字で言うと、小麦粉の約70%は糖分です。ですから、低糖質スイーツには洋菓子のボディーとなるべき小麦粉が使えないということなんです。

小麦粉が使えなければ、お菓子は作れないのでは?

小麦粉の替わりになる粉が必要ですね。よく用いられるのは、小麦の胚芽や「フスマ」と呼ばれる皮の部分、生の大豆を挽いた粉、アーモンドの粉末などです。これらの材料には、パンやケーキなどを膨張させる小麦粉の成分「グルテン」が入っていないため、焼いてもふくらまないという欠点がありますが、グルテンだけを添加することで補うことができます。

工夫次第で低糖質スイーツを作るのは可能ということでしょうか?

そうですね。それらしいものを作ることはできます。ですが、小麦粉の替わりに使われる粉にはそれぞれ苦みやえぐみがあったりするため、出来上がったお菓子の味はどうしても普通のスイーツに劣ります。また、スイーツのしっとり感は砂糖が本来持つ保湿性・吸水性に頼るところが大きいのですが、甘味料には砂糖のような性質がないので、普通に作るとパサついた感じのお菓子になってしまいます。糖尿病の方も、「おいしくない低糖質スイーツを1個食べるより、普通のおいしいスイーツを半分でも3分の1でもいいから食べたい」と思われるのではないでしょうか。ですから、低糖質であっても、おいしいスイーツを作らなければならないと感じています。
幸いなことに、最近になって外国のメーカーから低糖質スイーツ専用の粉が業界で初めて発売されました。私もこの粉で作ったお菓子を試食しましたが、「この糖質の少なさでこのおいしさ?」と驚いています。こうした材料をうまく使うことで、低糖質スイーツの可能性はグンと広がると思います。

では、今後低糖質スイーツはどんどん広まっていきそうですね。

そう言いたいところですが、難しい部分もあります。私も含めてお菓子職人にはこれまで、お菓子作りを「健康」の視点から考えるという習慣はほとんどありませんでした。お菓子は生きるために食べる食事とは違って、なければ食べなくてもいい食べ物。でも、たまに食べると生活や心をちょっと豊かにしてくれる、そんな存在です。ですから、「いかにおいしく作って喜んでもらうか」だけを常に追求してきたようなところがあります。我々職人の側も、それを切り替えていかなければなりませんね。
商売として考えた時の難しさというのも否定できない点です。たとえば、糖尿病の方から注文を受けて低糖質スイーツを作るとします。でも、洋菓子店の店頭を見るとわかるように、お店では同じ種類のお菓子を一度にある程度まとめて作ります。つまり、1個だけ特別なお菓子を作るのはとても難しいんですね。かといって、お菓子の性質上1日に大量に売れるものでもないので、たくさん作っても無駄になります。お店で売る商品としてはなかなか難しいというのが正直なところですね。

なかなか簡単にはいかないようですね。

ですが、必ず需要はあると思います。低糖質スイーツは国内で取り組みが始まってからまだ3年ほどしか経っていませんが、最近は製菓の業界誌でも取り上げられるなど、徐々に広がりを見せてきています。必要としている方がいる以上は、私たちも取り組んでいく必要性があると感じていますし、もっと広まった時にあわてないよう、今からしっかりと準備していきたいですね。店頭でどう売るかというのは今後の課題ですが、病院や施設からの依頼があれば、それに応じて低糖質スイーツを作って納めるというやり方はあるかと思います。
私が教員を務める函館短期大学付設調理製菓専門学校でも、2年制に移行する来年度からは低糖質スイーツの基本的な作り方や考え方についてカリキュラムに取り入れていく予定です。これからは、お菓子を作る人の意識の中に「健康」の視点も植え付けていく時代になるのではないでしょうか。

㈱アキヤマ 小林周平常務

低糖質スイーツは製品として広く市販されているものではありません。その反面、お客さまのニーズに合ったお菓子を作ることができる、小回りの利く食品であるとも言えます。当社は函館洋菓子協会と函館スイーツ推進協議会の事務局を担当しているので、そのノウハウを活かしてお客さまのさまざまな健康の悩み解決に取り組んでいきたいと考えています。両協会を通して、今回ご紹介した低糖質スイーツに限らず、高齢者や健常者も安心しておいしく食べられるスイーツ作りをしていきたいですね。

 

(取材日:平成29年5月29日)