第15回 足首捻挫からの最短復帰―固有知覚

toyo_doc「東洋医学的 健康針断」では、年4回、益井東洋治療院の益井院長が、現代西洋医学とは、少し視点を変えて診た「体や健康」についてのお話をしていきます。お気軽にお読みください。
<東洋医学的 健康針断>

コラム寄稿:益井 基 院長
(益井東洋治療院)


●判断基準の難しさ

皆さん、こんにちは!
スポーツの秋と言われるくらい、いろいろな種目のスポーツが盛んに行われていますね。
当院でもランナーやバスケット選手、バレーボール選手など、色々な運動選手が、スポーツ傷害で受診されています。
それらの運動選手がおこすスポーツ傷害で最も多いのが、足首の捻挫であると思います。

さて、ここで治療側として一番難しいのは、その怪我を治療するに当たり、どこまで運動を継続させながら治療が可能なのかの判断であります。
「捻挫して足首が腫れて痛みがあります」このような状態で受診された患者さんに、単純に運動をやめさせ、3週間程度安静にさせる事が出来るのならば、一番安心なのでしょうが、それは現実には合っていない事が多いのです。

特に部活をやっている高校生などでは、学年によっては最後の大会であるという事情が出てくることもあります。また、チームの要の選手で、その子がいないとチーム全体に大きな影響が出るような場合もあります。
単純なスポーツ活動の制限は、本人にはもちろんのこと、チームやその両親にまでも精神的なストレスが大きくかかってくる事が多くあります。
そうは言っても病態によっては永続的な病変が出たり、一生涯にわたり後遺症に苦しめられたり、将来的な就業が制限されたりすることもあるので、ホワイトテープでがちがちに固め、無理をして運動を継続する事が良い事ではけっしてありません。

最も重要な事は、「安静と継続のバランス関係」、「必要な安静は必ず守るべき」ですし、「必要以上の安静は守る必要はない」と言うことであります。
つまりここらあたりのラインの引き方、判断が治療サイドである専門家の役割であると考えております。

●関節の感覚―固有知覚

ここで「どの程度の安静が必要か」、「どの程度の関節固定が必要か」という判断をするときに、最近では、関節の固有知覚に着眼して、より早く復帰できる治療法の試みがなされています。
「固有知覚」-あまり聞きなれない言葉なのではないでしょうか?
しかし最近のスポーツ医学会では特に注目されてきているものであります。
これは「関節の位置を認識する感覚」で、今、関節がどのくらい曲がっているか、どの方向に力がかかっているか、などを判断する為の感覚であります。

私たちは普通、何も意識しないでも、でこぼこの道を転ばず歩いたり、飛んできたボールに手を伸ばしたり、投げられたボールを打つ事が出来ます。
これらの動作が出来るのは、関節の固有知覚のおかげであり、つまりこれが発達していると運動能力が上がるわけであります。

●最適な治療方法

治療にギブスを使って、長い間、関節を固定していると、関節の固有知覚が鈍くなり、怪我の改善後も自分のパフォーマンスを回復させるのに、時間がかかり、復帰が遅れてしまいます。
また、最近の研究では、足首の捻挫に関して、ギブス固定をしなくても、多くの状態でよく治るという事がわかってきました。

以前までは、怪我した足にはなるべく体重をかけないようにして歩いていましたが、これも痛みの許す限り体重をかけていくことが望ましいとされています。
ギブスの代わりに機能装具と言って、足首の運動機能があまり損なわれずに、なおかつ患部には負担がかからないようにするサポーターを使用します。(これはスポーツ用品店などにも売っています)
また、キネシオテープやエラスティックテープなども使用に、患部の動かしたくない方向への制限をしっかり付ける事も出来ます。

傷がつき炎症を起こしている患部には、鍼灸による消炎鎮痛作用が効果的でありますし、炎症が落ち着いた後の関節や靱帯、筋肉の硬さや瘢痕のリハビリ・回復にはマッサージが適しております。
「可能な範囲で関節をギブス固定せずに、固有知覚を鈍らせずに、リハビリし、治療する。」
これを実践するには、的確な状況判断と回復を早める為の治療が必要とされますので、整形外科で骨や靱帯に骨折や断裂が無いかを確認したうえで、私どもにご相談くだされば良いと思います。

どうぞ怪我には十分注意して、楽しいスポーツ生活を過ごして頂きたいと思います。