第29回 「痛み」とはどんなものなのかを考えてみましょう

toyo_doc「東洋医学的 健康針断」では、益井東洋治療院の益井院長が、現代西洋医学とは、少し視点を変えて診た「体や健康」についてのお話をしていきます。お気軽にお読みください。
<東洋医学的 健康針断>

コラム寄稿:益井 基 院長
(益井東洋治療院)


皆さん、こんにちは!
さて、今回は私たちを苦しませる「痛み」について考えたいと思います。

痛みというのは本来、私たちの生命を守るための重要な機能で、何かがあると「痛み」が発生し、警告システムとしてセンサーからのメッセージが脊髄を通して脳に伝わり、それにより必要に応じた行動を取ることができる大事なシグナルなのです。

しかしこの「痛み」は非常に厄介なもので、同じような原因でも感じる痛みの程度に個人差があったり、痛みの回復が人それぞれであったりと、客観的に痛みの度合いを測るものはありません。

なぜそのようになるかと言うと、痛みを脳まで伝える神経系を様々な情報が通るのですが、そこには情報を振り分けるフィルターとなるゲートがあるのです。
このゲートが必要な情報を振り分ける為に、開いたり閉じたりして脳へ伝わる情報量をコントロールしています。

痛みに繋がる情報がどんどんゲートを通り、脳に流れ込んでしまうと強い耐えがたい痛みとなり、必要な情報以外はゲートが閉まり脳まで伝わらなければ痛みは軽減してくるといったメカニズムの様であります。

鎮痛剤はこのゲートを閉める役割があり、痛みを増加させる情報をシャットアウトして痛みを和らげる働きがあります。

痛みを大きく分類すると「急性痛」と「慢性痛」がありますが、これは全く性質の違う痛みなのをご存知ですか?

◎急性痛の場合は、痛みが発生している場所から脳へとメッセージが伝わっていきます。この痛みには、脊髄のゲートは非常によく働きます。
薬などが与えられれば、私たちはこのゲートを閉め、ゲートを通る痛みの情報量を少なくし、痛みをうまくコントロールし、鎮痛させることができます。

◎慢性痛の場合は、このゲートを閉じるのが非常に困難になり、急性痛と同様の処置では、強い薬を使ってさえも、ゲートを閉めることができずに痛みを軽減できないことがあります。
そのような時には、「痛みは頭の中だけのもの」または「脳の勘違い」となっていることが多くあることが分かってきました。

また別の場合には、痛みの引き金となっている損傷や病気が、それほど大きくないにもかかわらず、ゲートが開いてしまい、ゲートを通る痛みの情報量が増し、その結果はるかに強く痛みを感じてしまうということもあります。

多くの人は痛みがあるとその原因を見つけたい為に、レントゲンやMRIで検査してほしいと考えます。
しかし、例えば腰痛の原因の85%は、そうした検査で原因をみつけることができない「非特異的腰痛症」と言われているものであります。

原因が目で見える痛みというのは意外に少なく、目で見える異常にだけこだわっていると、痛みの原因を間違え、ひいては不要な手術に踏み切ったり、無駄な検査を繰り返したりすることにつながってくるのです。

痛みを強く感じ、検査しても手術するほどの病変ではない時、多くはペインクリニックでの神経ブロックという治療が選択されます。
ここでは、患部から伝わる痛みの信号を途中で止めるための、つまりゲートを閉める処置が中心に行われています。

この治療は大変に効果的な素晴らしい治療でありますが、この方法では対処できない「痛みを感じる仕組みの故障」と言えるような病気があることが分かってきました。
前述したように、そのような痛みには従来の鎮痛剤や、ブロック注射は効かないのです。

ではどうすればいいのでしょうか?

痛みがあれば誰しも、気分が晴れず、何をするにも我慢が必要になります。
必要以上に体を安静にしてしまうこともあるでしょう。

しかし辛さによって動かないでいることは、更に気分を落ち込ませ、体力も落ち、症状の悪化にも結びついてしまいます。

私たちは痛みを改善させるために、色々なことを試しますが、いったん慢性化してしまったものを簡単に取る治療は実は残念ながら無いのです。

でも、「痛い」すなわち「動けない」ではありません。
患者さんを上手に励まし、支えてあげることができれば、日常生活を取り戻すことができるかもしれません。
体が痛みに支配されている時は、ネガティブな考え方ばかりになり、それが悪循環となり恐ろしい痛みばかりが襲いかかってきます。

大切なのは、何かを始めるとき、「私にはできる。できない理由など無い」と前向きに考え、出来ないことを憂うのではなく、出来ることを考え、楽しむのです。
落胆していて、「痛い、痛い、痛い」という思いで頭がいっぱいになった時、その状況に対して前向きな考え方に切り替えるとどうなるでしょうか?

例えば、「今日はいい天気だな」など、単純なことで良いのです。
「庭の畑に新芽が出てきた」とか「公園の花が綺麗に咲いたな」など、身近にあるちょっとした前向きに感じられることを自分の生活に取り入れるのです。

そうすることで最初はちょっとした短い時間の間でも、とても気分が良くなるはずです。その少しの時間を積み重ねてみましょう。
すると悪循環が経ち切れ、少しずつ良い循環が生まれてきます。

痛みと戦おうとし、張り詰めていた気持ちが緩み、好循環が始まると、どんどんと良い方向に気持ちは開き、次第に悩んでいた痛みは和らいでくるはずであります。
つまり慢性的な原因となっていた痛みを感じる仕組みの故障である「脳の勘違い」が補正されてくるわけであります。

悪循環に入っている状態から、考え方を変えていくというのは、患者さん本人にしかできず、簡単なことではありませんが、家族や周りの人たちにきっかけを作ってもらうことができればきっとできるはずです。

今出ている痛みの原因が何なのかを正しく判断し、必要な治療に結び付けていく役割も鍼灸師には必要とされており、これをペイン・マネージメントと言います。
確かなペイン・マネージメントをするためには、西洋医学的な治療が必要なのか、東洋医学的な治療のサポートで大丈夫なのかを見極めることが必要であります。
しっかりと患者さんの状態を理解・把握し、生活習慣や考え方、食生活などの指導や種々の相談に乗るのも我々の役割であると思っております。

長年治療してもなかなか改善しないでお悩みの方は、鍼灸師にゆっくりと話を聞いてもらうのも良いのではないでしょうか。
きっと改善の糸口となると思います。

〈参考文献〉 Pain Management Network